第5話:勇者ヴェレトスの伝説によると。
しかし問題は、その《残機》――命の数の増やし方だ。それがわからないなら、命の数がひとつ多いからとて、
僕は目を皿にして、すみずみまでその本を読み込んだが、残機の増やし方については不明であるとのことだった。勇者ヴェレトスに関する記述がある本は他にもあったが、詳しいことはやはり書かれていない。これじゃ宝の持ち腐れだ。どうしよう。
疲れてしまった僕は、ぐうぐうと鳴くお腹に頭を抱えた。お腹が空いて頭が動かない。そういえば朝から何も食べておらず、しかし自分はいま無一文。パンのひとつも買えやしない。一旦家に帰るしかないか。
そう思って、読んでいた本を戻す。とぼとぼ歩いていると、帰りがけに司書さんに呼び止められた。何かと思ったら入館証だ。再発行をお願いしていたのを忘れていた。
「じゃあこれ、新しいやつ。次はなくさないでね!」
「はい……ありがとう、ございます……」
「なんだい、元気がないね。調べ物、はかどらなかったの?」
「ああ、いえ……まあ、はい。そんなような感じで……」
「ふうん。やっぱ大変なんだね、薬師ってのも」
なっはっは、と司書さんは
「あの、司書さんすみません、勇者・ヴェレトスの伝説ってご存知ですか?」
「ん? 勇者・ヴェレトス? ああ、アレでしょ、何されても死なないって有名な。お話じゃすごい色男だったそうだねぇ……? 何アンタ、今日はその勇者様について調べてたの?」
「ん、まあ、はい……そんな感じです。彼は自身のユニークスキル、《リジェネレート》で命を複数持つことができたみたいなんですが、それを貯めるための条件が、調べても出てこなくて……」
「ふうん、そうなの?」
と司書さんは垂れたあごをさする。
「詳しくは私も知らないねぇ……ていうかアンタ、アレって確か
「んぐ、まあ、はい……そういう見方も確かにあるんですが……」
僕は再び肩を落とした。やはり駄目か。図書館の司書さんさえ知らないとすると、アカデミーの先生に訊ねるか、最悪自分で検証するしかない。といっても先生方は多忙でいつ時間が取れるかわからないし、自分で試そうにもどこから確かめたらいいのか見当もつかない。僕がこのスキルを使いこなせるようになるのに、一体どれだけの時間がかかるのやら。まったく先が思いやられる。
だが、そんな僕を見ていた司書さんが、こんなことを言い出した。
「……ウォーキンデックス様なら、何かご存知かもしれないねぇ」
「う、うぉーきん? それはあの、どちらさまで……?」
「ウォーキンデックス様よ、ウォーキンデックス様。ものすごい博識な女魔導士様でね? 歩く百科事典って呼ばれてるのよこれが。この図書館の常連で、確か古い伝説とか説話とか、そういうのが専門だったはずだよ。下手したらアカデミーの先生様方なんかより、よっぽど詳しいかも」
「歩く、百科事典……」
なんだかすごそうな肩書きだ。僕の脳裏に聡明そうな、皺を蓄えた壮年女性のイメージが浮かぶ。そんな人なら、確かに何か知っているかもしれない。
「そ、そのウォーキンデックス様は、いつもはいつごろこちらに!? 本日はいらしてないんですか!?」
「んん、そういえば最近見てないねぇ。ダンジョンに行くようなことを言ってたと思うけど……」
「その話、詳しく教えてください!」
僕が慌てて問いただすと、司書さんは思い出し思い出し教えてくれた。
話によるとそこは、《
ウォーキンデックスというその魔導士様は今回、その『いわく』が何なのかを突き止めるため《
「そう考えると、嫌な想像をしちゃうねえ。あの人に限って滅多なことはないと思うけど、なんか変な目にあってないといいねぇ……」
僕はしばらく「うーん」と考えて、やがて司書さんにこう尋ねた。
「そのダンジョンの場所、教えてもらえますか?」
(つづく)
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