第4話:図書館で調べてみましょう。
僕は目を細める。それは、体調をよくする呪文や、怪我が治るアイテムを使ったときに表示されるものに似ている。けど……リジェネレート? 聞いたことのないスキルだ。それに『残機数』って……? 何がなんだかわからない。
うーむ、と唸っていると、ドンドンドン、とドアがノックされた。びくっ、と反射的に肩を震わせて、振り返る。
「お客さん時間すぎてるよ! これ以上は追加料金かかるからね! 聞こえてるかい!」
おばさん風の声がした。きっと宿屋の大家さんだろう。
「は、はーい! すみません、すぐ出ます!」
僕は慌てて服を着て、すみませんすみませんと内心で何度も謝りながら、宿屋を後にした。窓から逃げるなんて初めてだったし、なんなら短い距離を落下したけど、払えないものは払えない。
罪悪感はあったけど、本来的には僕からお金を盗った奴らが悪いのだ。僕を騙して、殺した奴らが。でもそんな風に思ってもやましい気持ちは消えなかったし、脳裏に蘇るミミさんの顔や仕草は、心底かわいいままだった。もう一度会いたいとさえ、頭の片隅で思っていた。そんな自分が情けなくって、僕は記憶を振り切るように、黙って足早に歩いた。
図書館に行こう、と僕は思った。昨日、何が起きたのかはわからない。だけど多分、この『リジェネレート』というものが発動したお陰で、僕は生きながらえたのだろう。調べればこのスキルについて、何か情報が出てくるかも知れない。
◆
アカデミー卒業以来、二年ぶりに訪れた街の大図書館は、びっくりするくらい何も変わっていなかった。この二年間の地獄のような日々が白っちゃけた嘘だったような気がしてくる。思えば二年なんて歳月、あっという間の出来事だった。
財布と一緒に図書館の会員証も盗まれてしまっていたけれど、受付にいた司書さんは、僕のことを覚えていてくれた。
「あら、久しぶりねゼジちゃん! ずいぶんご無沙汰だったじゃない!」
気のいいおばちゃん司書さんはそう言ってニコニコとしている。確か、遠くへ出稼ぎに行った息子さんが、僕と同じくらいの歳なんだったか。
「あ、ど、どうも。すみません仕事が忙しかったもので……」
「へえ、すごいじゃない! 最後に来てからもう二年くらい? それだけ忙しくしてたんなら、結構貯金もできたんじゃないの?」
ちくり、と胸に嫌な感じが広がる。悪意がないとわかっているのに、うるさい、と叫び出しそうになった。ぐっと堪えて、笑顔を浮かべる。
「あの、入館証なんですけど、なくしちゃって……再発行ってできますか?」
司書さんは快く承諾してくれた。帰りに渡してくれると言う。ありがたい……と思いながら、僕は久々の図書館に足を踏み入れた。
「――これだ。スキル、リジェネレート」
二時間ほど費やして、僕は目当ての情報が載っている本を見つけた。
と言ってもそれは神話……というか、誰でも知っている昔話で、現在の三王国体制が出来上がるずっと前から世界を守っていた勇者・ヴェレトスに関する伝記だった。
彼が持っていたとされるユニークスキル、《リジェネレート》。簡単に言えばそれは『命を複数持つことができるスキル』だった。《残機》というのは現在ストックされている残りの命の数なのだそうだ。
僕は目を見張って驚いた。
勇者・ヴェレトスと言えば誰もが知っている救世の騎士だ。そんな超有名な勇者と同じスキルが、この僕に……!? こんなことって、あるのだろうか!?
神話上では勇者・ヴェレトスは大変な人格者で、剣にも魔法にも秀で、八人の妻をめとり、その全てと幸せな生涯を送ったとされている。
ならばもしかしたら、自分にもそんな生き方ができる可能性が? そんな芽が少しでも、あったりするのだろうか……?
(つづく)
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