第2話:初対面でも気が合うことってありますよね。

 話によるとミミさんは、今日の昼に初めてこの街にやってきたのだという。普段は行商人の護衛を生業としていて、いつもなら次の仕事を取り付けてからくつろぐところ、契約先が見つからず、寂しく飲んでいたのだそうだった。


「一人で飲んでも楽しくないし、そう思ってたら知り合いっぽい人がいたんで、思わず話しかけちゃったんです! 行商人の間では『旅先で知り合いに会ったら二度目はないと思え』とかいう格言もあったり……」

「へ、へぇ、そうなんだ?」


 僕は仕事柄、行商人や旅人と接することもありはしたのが、深く話をする機会はなかった。ミミさんの話は初めて聞くことばかりで興味深く、なによりミミさんがいちいち明るく反応してくれるので、自然と会話が弾んだ。


「私童顔で、背もちっちゃいから、よく男の商人さんに舐められるんですよ。小娘じゃねーかっ、って。ひどくないですか!?」

「そ、そうなんだ」


 似たような経験は僕にもあった。気持ちはよくわかる。だがミミさんは、僕と違って諦めなかったらしい。


「でもほら、私こう見えて結構筋肉あるんですよ、ほら」

 そう言ってただでさえ軽装な上着の、腹の部分をめくって見せる。

「腹筋、割れてるでしょ?」

「……? わ、割れてる、かな?」

「えー、わかりません!? よく確かめてみてくださいよ!」

 そう言って膨れると、ミミさんは僕の手を取って、自分の腹に当てた。

「ちょ、ミミさん!?」

「ほら、どうですか。ムキムキでしょ?」

 僕は手に伝わる女の子のお腹の暖かさに、大層に泡を食ってどぎまぎと慌てた。


 女の子とこんな風に会話したのはいつぶりだろう。女子というのはかっこいい魅力的な男性以外は木石か何かと考えているらしい。それがアカデミーで培った経験則だ。なのに目の前のこの子はどうだ。なんて輝かしい子なのだろう。

 うっ、とニヤけそうになる頬になるべく力を入れて耐える。だけどそんな僕の顔をミミさんはじっと覗き込んできた。


「あはは、それ、どういう顔ですか? かわいい」

 その瞳は、吸い込まれそうに綺麗だった。甘ったるい、良い香りがする――


 数時間後、僕は宿屋の一室にいた。さっきの飲み屋のすぐ向かいにある、どこにでもあるレンガ造り。その二階の角部屋。いい具合に酔いも回った僕はベッドで仰向けに横たわっていた。どくどくという鼓動が耳の奥で脈打っている。


 そして視界の下方、ベッドのフチにはミミさんが腰掛けていて、いま、着ていた衣服を全て脱ぎ去ったところだった。豊満な胸が重力に従ってぶるりと揺れる。美しい小麦色の肌は、まるで八重麦の女神のようだ。そしてもちろん、全裸なのは僕も一緒だ。


「あの、ミミさん。本当に、僕なんかと、いいの?」

 僕が恐る恐る聞くと、ミミさんは

「あー、そーいうこと言うんだ?」


 とくすり、笑う。ミミさんは完全に打ち解けてくれていて、いつのまにか敬語も使わなくなっていた。


「私、これでもちゃーんと気に入ってるんだよ、ゼジさんのこと。そりゃ、こういうことは初めてじゃないけど……でも、誰でもいいってわけじゃないんだからね?」


 そんな風に言ってミミさんは僕の体の上を蛇のように這って進む。暖かな胸と柔らかい桃色の髪が、くすぐるように僕の上半身をなぞって――彼女の湿った舌が僕の首筋を撫でた瞬間、あんまり気持ちいいんで、僕は「うわ、すごい!」と歓声をあげた。


 ミミさんはそれはもう、激しかった! この世の気持ちよさという気持ちよさが無理やり股間に注ぎ込まれて、そのままとめどなく流れ出ているかのようだった。「ご、ごめんね、早くて!」と僕が謝るたびに、ミミさんは「いいよ! その方が燃えるから!」と言って喜んだ。夢のような時間だった。さっき死んじゃおうかと思っていたのが嘘みたいだ。生きてれば良いことあるんだなと思った。


――そして、ついにその時がやってくる。


(つづく)

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