第18話 それぞれの

※※ 息子達名前・長男:オック、次男:エタフェ

三男:フォロロ ※※


ーーーーー


「うわっ!うわああっ!お父様っっ!!」


三男・フォロロは取り乱し、泣きながらイーダの

遺体にしがみついた。


「胸にナイフが刺さっている!

誰がこんな酷いことを……!!」


これより非道いことを散々行ってきた2人で

あるが、自分の身に起こったことだけが

自分達にとって世界の全てだった。


「大きな声を出すな、外の奴に気付かれるだろ。」


「でも、でも兄さん、兄さんは悲しくないの?

悔しくないの?お父様がこんなことに……」


「今はそれより大事なことがある。

お父様はこの国で2番目の実力者なんだ。

一番手である総統陛下が死んだのだから

実質今はお父様が総統陛下と同等なのだ。」


「でもお父様はもう死んで………」


「お父様の死はまだ外に知られていない。」


「え………?」


「お父様が死んでも、お父様の意思を引き継がなくてはならない。それができるのは俺達だけだ。」


「そ…?そ、そうか…!!」


フォロロはよく分からずとも無理矢理口を合わせた。


「お父様の死を隠し、お父様の意思を引き継ぎ

俺達でお父様の代わりをやるんだ!」


「う、うん、そうだな!」


フォロロはよく分からないまま同意し、

外の者にはイーダは総統の死を悼み今は

失意で落ち込み塞ぎ込んでしまったので

そっとしておいてほしいと伝えた。


使いの者は

『あの総司令が塞ぎ込むか??』

と驚き信じられなかったが、オックを疑うことは

恐ろしかったので、


「承知しました。」


と引き下がった。


2人は秘密裏に遺体を処理した。



見つからない犯人を探している間に総統府では

噂が広がっていき、夜には総統が暗殺されたのではと騒ぎになり始めていた。


No.2のイーダに事をまとめてもらおうとしていた

総統の側近達も焦り出し、事態を収めようとしたが意見はまとまらなかった。


総統自身も疑り深い性格で、自身が前任を

騙して嵌め殺した為に誰のことも信用できなくなり

後任や跡取りを準備していなかった。

イーダに対しても信頼していた訳ではなく

のし上がる為に利用していたに過ぎない。

彼の裏方面での使い勝手が抜群なため

重宝していたが、その性格や人間性はどちらかと

いうと嫌悪し見下していた。


それはイーダの方も同じで総統のことを尊敬

していた訳ではなく、自分の立場と実験場を

確保するために都合よく従っていたに過ぎ

なかった。

彼は権力にはそこまで執着していなかったので

No.2の座を割と気に入っていたのだった。


そのイーダにしても総統に次ぐ実力者が出てくる

ことは好ましくなかったので、そういった

危険のある者を次々に消していったのである。



事態をまとめる者がいないまま総統暗殺の噂が

流れてゆき、総統府に軍部の上層部がやってきた。

しかし軍部のトップは日和見的で指導力には

常に疑問が付きまとっていた。

総統達にとって都合良い人選のため致し方なかった

とはいえ余計に混乱を増す要因となってしまった。


今までと変わらず軍事支配を続けるべきだと

主張する派閥と、それとは別に軍事的圧力による

恐怖支配は止めるべきだと唱える声も複数上がって

きたためである。


初めは反体制派が有利になりつつあったが、

体制継続派にイーダの息子達が合流し、形勢は

変わっていった。

とはいえ姿を現さないイーダのことを訝しむ者も

少なくなく、どちらにも付かずに諦観する勢力も

存在していた。


その空気はやがて国内に広がっていき、各地で

内乱や小競り合いが勃発してしまい、結果

国内は内戦状態へと悪化していってしまった。



総統の暗殺犯はついに分からず仕舞いであった。

明確な革命、又はクーデターなのか個人の恨みに

よるものなのかも分からなかった。


しかし、イーダの息子達であるオックとフォロロは

イーダとその側近が一網打尽にされていることを

知っているため、もう少し犯人に当たりをつけることができていた。


「やっぱり情報部の誰かだよね?」


そこは間違いないだろうとオックも同調するが

情報部の内乱であった場合それが漏れることは

イーダの統率が取れなくなっていたと広まるために

これからの事態が(自分達にとって)マズくなる。


「そうかもしれないがそのことは誰にも話すなよ。」


オックはフォロロに厳命する。


「エタフェが無抵抗で殺られるなんて信じられ

ないよ。あんなことできるの『死神』くらいだろ、でも死神がお父様に背くなんてあり得ないよね。」


「…………死神が何を考えているかなんて、

本当のところは俺達には分からない。」


「でもお父様は死神は自分の完璧な手足だって、

どんなに俺達がお父様を慕っても、俺達よりも

あっちを信用していたじゃないか……!」


フォロロは悔しそうに喚く。


「実力と信用は別物だ、それに……証拠がない

以上自白が必要となる。お父様のノートも

無くなっている。あれのことを知っているのは

『梟』の筈だ。確たる情報が掴めてないうちは

悪戯に動かなくていい。」


「そんな!直ぐに仇を討ちたくないの!?」


「まずは体制派が実権を握り、その権力を盤石に

する方が優先だ。お父様が築いた体制を崩すのは

許されない。」


「うう………」


フォロロは感情的だが、自分の行動でさえ

自分で決めることができなかった。


『蠍も蜂も信用できないが、とくに蠍はお父様の

信頼もまだ浅く、俺が監視していたくらいだ。

アイツには動機があるがアイツが犯人でないのは

俺が証明できる。

蜂は……アイツは何を考えているのかさっぱり

分からない。だがアイツが犯人では困るからな

………アイツは誰よりもお父様の

お気に入りだった。それが総統を殺ったとなれば

お父様以下にも罪が及ぶ。それに……』


オックには何より苦手なものがあった。


『お前とは敵対したくないものだな、

キラービー。』


嫌な予感は当たるものだ。

だが今は予感などには捕われず、目の前のやるべき

仕事に追われることにしたのだった。



           お し ま い


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