第14話 夜明けとともに…

今にして思えば……

蠍はよくもまあペラペラと喋ってくれたなと

キラービーは思い返した。


最後の独白のつもりだったのか、


『だがあいつはしぶとそうだ。』


何となくそう感じた。


『信頼か………』


キラービーにとってはよく聞く言葉であった。


「キラービー、今回も頼む。信頼しているぞ。」


あの男は何を持ってして私を「信頼」したのだろう?

私は指示も命令も全てこなした。

だからだろうが、スコーピオンの言う信頼とは

何かが違う。

どう違うのかは自分に対してさえ説明できない。


『どうでもいい、下らない。』


彼女にとって他人の思いや感情が干渉してくる

ことはまるで自分とは関係のないこととして

受け止めていた。

しかしそれは利用もできるし、そして本来は

とても大切なことのようにも思えた。




一つの決断を下したことは、キラービーにとって

初めてのことだった。

そしてその決断をしたためにやるべきことが

生まれた。

限られた時間をどう使うか……

彼女は手を付けられるところからやり始める

ことにした。


リンセンから首都タクツークまではキラービーの

足で3〜4時間を要し、

総統府に着いた頃には日が登り始めていた。


彼女は総統府をよく知っている。

総統の護衛も何度も務めていた。

忍び込むことは訳無かったのである。


予定を管理している部署に忍び込み確認をする。

特定の予定が無い日のルーティンは割と決まって

いて、この日もそれは変わらなかった。

イーダの予定も把握していた。

やるべきことをやる。

それはできる限り最低限で……



午前中に各部署との会議を済ませ、

午後から秘書や側近との打ち合わせをする。

午後3時頃から自室で書類整理や自分の時間に

当てることがほとんどでこの日もそうだった。

秘書を連れていることが多いがこの日は

総統1人と護衛が1人。


護衛はイーダの息子の次男だった。


イーダには息子達と呼ばれる3人の男がいた。

歳の頃は30前後で、血の繋がりはなかった。

かつては妻も実子もいたのだが、イーダとの

関係に苦悩しこの世を去ってしまった。

(どうもまともな人間だったらしい)


その事をイーダは何一つ気にしなかった。

息子達にしても養子にしたわけでもない。

そう呼んでいるというか、そう呼ばれている

だけであるのだが、そこの事情は複雑で最悪

であった。


絶対に裏切らない駒が欲しかったイーダは

幼かった“息子達”を引き取り自分を“父”と慕う

ように躾けた。

そこからのことは割愛するが、息子達は

イーダに完全に支配され、絶対に逆らわず

イーダを尊敬し、愛されていると信じていた。


『次男か……』


キラービーにこれからの行動で何かが引っ掛かる

ことができるとしたらここになるだろう。

次男はとても臆病で主体性の無い男だった。

長男と三男のやり方と考え方を真似るだけの

とても憐れな存在であった。

(少なくともキラービーからはそう見えた)


しかし迷うわけにはいかなかった。

行動すると決めた以上完遂するしかない。


彼女は総統の部屋の前で見張りをしている

次男の前に現れた。


「おや、キラービー、護衛の交代ですか?

聞いていなかったけど、お父様の命令かな、

何か僕に緊急の用事ができたのかもしれない。」


彼はキラービーが任務中であることを

知らないようであった。

そしてキラービーのことを信用していた。


ためらってはいけない。


「いや、総統に直接用事があるだけだ。」


「そうでしたか、お父様からの言付けですか?

どうぞ。」


何も疑うことなく扉の前から退き、キラービーに

場所を譲った。

その次男の背後から……

キラービーは一撃で一瞬で彼の命を奪った。


次男は自分に何が起こったのかも分からないまま

静かに絶命した。


子どもの頃を除き、命令以外で人の命を奪うのは

初めてのことだった。

(子どもの頃でさえ、それは正当防衛といえなくもない)


心は何かを感じようとしていたが、今はそれを

感じるわけにはいかなかった。

ここからは余計な時間がない。

彼女はそっとドアから中に入り、中にいた

総統も始末した。












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