第6話 潜入(1)

「時間はいくら掛かってもいい。

必ず成し遂げよ。」


命令はそうであった。


キラービーに光の教団の資料が渡され、

手足として使うようにと『梟』から一人の

諜報員が派遣された。


子柄な中年男性で、コードネームは『ビショップ』

であった。


※余談※

諜報機関で特に優秀なスパイは『梟』と呼ばれ

コードネームは鳥由来の名前で統一されている。

猛禽類でない場合は暗殺などが得意でないことが

多い。

暗殺部隊のトップ層『死神』は昆虫由来である。

感情が要らないので丁度いいという、名付け親の

趣味である。


「初めましてキラービー殿、ビショップと言います。何でも言っていただければ調べてきます。」


「始末対象は教主のみでいいのか?」


「基本の大筋はそうなりますが、可能であれば

手当たり次第教団員を始末できた方が

こちら側として都合がいいのは確かです。」


「とはいえ、教主とその周りは情報部所属経験者

がほとんどです。個人で多くを片付けるのは

非常に困難かと思われます。」


「故に今回はターゲットを教主に絞ることが

一番目的達成に適していると判断されました。」


「これまでの失敗事例を聞きたい。」


「……私の知る限りでは3度は失敗しています。

いずれも諜報員2名工作員3名暗殺員1名の6人組での行動でしたが、1度目は場所は掴めましたが、

実働隊に接触もできず成果無し。2度目は接触に

成功交戦有り、こちら側に2名死傷者成果無し。

3度目……帰還者無しです。」


「なるほど分かった。

元諜報員の正確な数は把握できているのか?」


「実のところ分かっていないのです。

10年前の『鴉』の反乱はご存知ですか?」


「詳しくはない。」


「私も『梟』になってからの所属なので詳細は

分かりません。もうその時のメンバーは残って

いませんが……その『鴉』から7名の裏切りが

あった、それを追跡した者、交戦で何名が死に

またさらにその後何名の裏切りが出たのかはっきり

分かっていないのです。総司令の激怒により

資料の一部は紛失されたとの噂もあります。」


「そうか……結局のところ教義以外は

何も分かっていないようなものなのだな。」


「そう…ですね。内情は何も掴めてないと

言われても仕方ありません。

しかし、今回のような機会は本当に初めてのこと

です。建物内の人数と配置を把握できれば

あなたなら任務を遂行できるとの見立てです。」


「私は諜報員を相手にしたことがない。

やれるかどうかは未知数だ。」


「あなたは状況判断と実行力の鬼と言われています。潜入の道筋さえ立てば問題ないかと思われます。」


「………今回初めて教団の行動を把握できたと

あるが、それが罠の可能性は?」


「それは……実のところ『梟』内では意見が別れています。ですが総司令とその周辺ではそれを疑う

様子はありません。こちらの情報の確かさを

絶対視しています。」


「そうか……」




今はほとんど使われていないリンセンにある

太陽王の教会を開放して講演会が行われると

予想されていた。


準備を進めている者達の中には首脳陣はいない

ようだった。


「誰か捕まえて吐かせますか?」


ビショップは提案してきた。


「いや、それで得た情報が正確かは分からない。

相手は鴉なのだろう?無駄な駆け引きをしても

仕方ないだろう。」


キラービーはビショップの案に同意しなかった。


鴉の反乱から10年、どれほど計画されての

反乱だったのかは今でも分からない。


他国の諜報機関とも互角以上にやり合ってきた

『鴉』である。

今の2人でやり口と行動計画を見抜くのは

不可能であろうと判断した。


イーダには人材の育成はできても

彼らの強い強迫観念に負けなかった精神力と

ここまで己らの尻尾を掴ませてこなかった

執念を理解できるのだろうか?


キラービーは考える、今、この時点で

この講演会は罠である可能性が高いと。

しかし罠を張るにはその罠の意図があるはずで

それが何なのかが分からない。

単にやって来る暗殺者を消す為だけとは

到底思えないのだった。


それを探るには罠に掛かりにいくしかないだろう。


ビショップは情報収集能力はとても高かったが

敵の作意を見抜くことに長けているようには

思えなかった。圧倒的にその経験が足りない

だろう。


仕方なく方針が決まるまで、周辺の情報を

探るのみに徹するのだった。


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