第5話 光の教団

光の教団とはーーー

それを説明する為には、この国の成り立ちについて

少し遡って解説していく必要がある。


※の中は長々と本編に関係のない成り立ち話に

なりますので、読み飛ばしても大丈夫です。

よくある(?)ような独裁政権の成り立ちみたいな

もんです。


    ※※※※※※※※    ※※※※※※※※ 


この国は元々豊かな土地を支配する王族と国民達が

互いに揉めることもなく何代も続いてきていた。

周辺国では激しい宗教戦争も珍しくなく、

時には周辺国の戦況に巻き込まれることもあった。


宗教は激しい争いを生むという認識がこの国を

特に王族には根付いてしまったので、

他国の宗教理念が入らないように王族を中心

とした、緩い宗教的教えを広めることにした。


それは王族は太陽の力を持つ一族で、王族を

称えていれば国は安定し、暮らしも豊かになる

という、厳しい戒律も縛りもない優しい

ものであった。


他国からの宗教に対しては、信じなければ地獄に

落ちる、災いがある等、人の恐怖心を煽って

心を支配する良くない教えだと一蹴するようにし、

実際に長い間それなりに豊かで穏やかな暮らしが

できる理想的な国家運営ができていた。


だが、周辺国はそうはいかなかった。

宗教、そして跡継ぎの問題などが噴出した

ある国でこの国の王族と血縁関係がある方に

支援を行った結果、争いは激化し、この国の

財政もまた疲弊した。


その他の国からの横槍も増え、王族内でも

意見が別れ考えが分裂していき、やがて

争いも起こり始めていった。


そんな時に力を付けたのが王家所属の軍隊であった。

軍部の総長は国民を煽った。

「王族は愚かで悪戯に国民の財産を貪り

使い尽くしている。

このままではこの国は滅びる。

今こそ国民が立ち上がり新しい指導者を立て、

正しい国を建国するのだ!」と。


国民達は王族に対して激しい怒りを持っていた

わけではなかった。

だが軍部に逆らうほどの情熱も気概もなかった。

緩い空気に慣れすぎて、争うことを恐れた。


結果、軍部のクーデターは易易と成功し、

王族は処刑もしくは追放となった。

それがこの物語中から70年程前のことだった。


    ※※※※※※※※    ※※※※※※※※ 


この国が軍事支配されてからは凡その独裁政権国家

と同じ道を辿ることとなる。


牧歌的な雰囲気は失われ、国家に都合の良い法律が次々と決まり、自由は失われ、生活は厳しく

なる一方であった。

国家の意思に背くことは許されず、

皆色んな思いを抱きながらも従順に従うしか

なかった。


国民の生活が苦しくなっていく中、

かつての王政支配を懐かしむ者が

大勢現れるのは致し方のないことである。


国家はその思想を厳しく取り締まった。


その為、『太陽王を信仰する』団体や勢力が

現れだした。

宗教弾圧は周辺国でも大きな問題として

内乱の火種になっていた為、大っぴらに

弾圧する事はしなかった。

内部崩壊を促すよう活動し、次々と勢力を

弱めていった。


そんな時に現れたのが『光の教団』である。


『光の教団』は王政復古でも王政支配を懐かしむ

ものでもなかった。

「ただ太陽の光に感謝し、日々を大切に生きよう」

という教義のみであった。


無欲無害に思われた団体であったが

大きな問題が2つあった。


教義には自由と人間らしい生活の為にとあり、

その思想は国家に従順であるよう押し付ける

ことと相反した。


そして一番の問題である諜報員の裏切り。

『光の教団』は誰がなんの為に創設したのか

謎が多いが、いつの間にか教主とその周辺に

諜報員や工作部隊の逃亡者が集まっている

らしかった。


今まで特に反政府らしい活動等は特になかったが

常に政府からはマークされていた。

だが元情報部の手練が集まっている為

その教団の情報は常に不確かで中々実態が

掴めずにいたのだった。


しかし千載一遇のチャンスが訪れる。

光の教団が首都に隣接する都市リンセンにて

講演会を行うという情報が入ったのだ。


今までは抜き打ち的に現れては講演活動を行い

情報が入った後には消えているばかりであった。


信者を集めるというあからさまな行動は無く、

講演会にて教義を広めるのみなので

人々はこの教団が危険視されているとは知らない。

心地良い教えは人気を呼び、講演会には

いつも大勢の人が集まった。


「この機会を逃してはいけない。」


イーダはプライドと怒りを過剰に刺激され

その決断を下したことは

焦りからの失敗だったのか、宿命だったのか

それは誰にも分からない。

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