第20話:それぞれの想い

 結局、寝着いたのは夜が明け始めた頃だった。

 まだ眠かったが、扉の外で騒がしい声がして目が覚める。


「まだ理央は寝てるんだよ。用事があるなら後にしろ」


「なんで~⁉ 僕は理央の伴侶になるんだから部屋に入ったっていいでしょ~⁉」


 声から察するに飛翔と黒曜だ。


「あのなぁ。伴侶って言うけど、理央はまだ誰も伴侶を選んでねぇんだぞ! 当然、俺にだって権利はあるんだからな?」


「えー、だって僕は理央のこと好きだから僕と結婚するんだよ? 飛翔はどうなの?」


 急に自分に話を振られて、飛翔は口ごもった。


「いや、俺はその、理央のことを守ってやりたいっていうか……保護者的なやつっていうか……いや、でも他のやつに連れて行かれるくらいなら俺と一緒になった方が幸せか?」


「僕に訊かないでよ!」


「そうか、理央は俺と一緒になればいいんだ! よし、俺が理央を幸せにする!」


 飛翔は一人で勝手に納得している。彼の中で何か天啓でも降りたのか、急に私と結婚する気になったらしい。

 そういえば私も飛翔のことをそういう相手として意識したことなかったな。裏表が無い性格で信頼できるし一緒にいて楽しい人だなぁとは思うんだけど。


「ちょっとあなた達、理央さまのお部屋の前で騒がないでくださいますか?」


 どうやら翠蓮がやってきたらしく、まるで裁判官のように厳格な声で彼らに言ってのける。


「いいですか。理央さまの伴侶に相応しいのは青蘭さまだけです!」


 しかし、それを聞いた黒曜が異を唱えた。


「そんなの誰も決めてないよ⁉ そんなこと言うけど翠蓮だって、いつも理央の姿をずっと目で追ってるじゃないか! 本当は理央のこと好きなんでしょ⁉」


「なっ……! 私はただ理央さまのことが心配で――」


 狼狽える翠蓮に二人がさらに畳みかける。


「正直に言いなよ!」


「翠蓮てめぇ、澄ました顔して実は狙ってやがったのか⁉」


「狙うだなんて失礼な! 私はあなた達と違って自分の身をわきまえております! 叶わぬ恋でも大切に想うくらいは構わないでしょう?」


 ――まさか睡蓮がそんなことを思ってたなんて。

 確かに睡蓮は知的で綺麗で素敵だなって思うけど、でもなんていうか……伴侶とかそういう目で見るのは難しいような気がする。

 でも大切に想ってくれてるのはうれしいな。


「翠蓮が想ってるだけでいいなら、やっぱり僕が一番でいいよね? 僕は理央のことが大好きだし、理央の為なら何だってできるもん」


 黒曜はいつも私を好きって言ってくれる。

 うれしいけど、やっぱり弟みたいに感じちゃうので気持ちに応えられそうにないなぁ。

 可愛いなぁって思うのと恋する気持ちって違うだろうし。


「……理央の為なら何でもできるとは大きく出たな。さすがは黒き龍よ」


 もう一人、声が加わった。青蘭だ。


「でも青蘭もそうだよね?」


「黒曜にはそう見えるか?」


「うん。僕、青蘭は一番油断ならないと思ってるよ」


「それは光栄だな。もし理央が私を選んでくれるなら、この身は我が民と理央の幸せの為に捧げるつもりだ」


 どこまでも真摯な彼の声。聞いていると、自然と頬が熱くなって自然と口の端が緩んでしまうのは、私が彼のことを意識している証拠だろうか。


 だけどここまで聞いてもまだ、私は誰かを選べずにいる。

 愛されてるのはとてもうれしいし、決めないといけないのはわかっているんだけど、もうしばらくこのままにしておくのは無理かな……?


 今の穏やかで温かい家族のような暮らしが好きだから、それが別の形に変化するのってちょっと勇気がいるなぁって思う。

 自分の中で少しずつ恋の芽は育ちつつあるように思うけど、今は見ないふりをしたい。

 いつかきっとはっきりさせないといけない時がくるだろうけど。


「ごめんね。あと少しだけ……」


 こんなのずるいなって思いつつ、私は部屋の中で眠っているふりをしたのだった。

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