第14話:飛翔の心遣い

「あー、やっぱり。そうだよなぁ……」


 飛翔はこめかみのあたりを軽く掻くと、女官をつかまえて小声で指示を出した。

 たぶん、そのせいだろう。部屋に運び込まれていた贈り物たちは別の場所に運ばれていく。

 騒ぎを聞きつけて翠蓮もやってきた。集まっていた男性たちも翠蓮と飛翔に追い返される。


「はぁ……やはりこのようなことになりましたか」


「臣下はもちろん、宮中に出入りしている商人までいたぞ。皆、理央に会いたくて来たらしいな」


「私は今後の対応を父上と相談してきます。飛翔、あとは頼みましたよ」


 睡蓮はそう言い残して足早に去って行った。


「皆、理央に興味津々きょうみしんしんだな」


「そんな風に興味をもたれても、ちっともうれしくない」


 私がふてくされると、飛翔は真面目な顔で警告した。


「いいか、これからは身辺に気を付けるんだぞ。無理やり力づくで夫婦にされちまうかもしれねぇし」


 確かに贈り物や恋文なら拒否すればいいだけだが、それ以上の行動に出られた時に私一人では対処できそうにない。

 無理やり力づくでなんて、考えただけでぞっとする。


「龍の巫女として、この国の人の役に立てばいいかなって思ってただけなのに、こんなことになるなんて……」


「怖いか?」


「えぇ。自分はここに来ない方がよかったのかもしれない」


 結果的に、自分は争いの種になってしまったのだから。

 落ち込む私を見て、彼は指先で私の頬をつんっと軽く突いた。


「そんな顔してんじゃねぇよ。理央は俺が守ってやるから大丈夫だって!」


「でも、私のせいで……」


「俺は理央に感謝してるよ。俺の故郷は災害のせいで作物も家も無茶苦茶になってたからな」


 そういえば山に登っている時もそんな感じのことを言っていたっけ。


「だけど、理央が黒曜の力を制御してくれたから、これからは災害に苦しまずに済む。理央が来てくれて本当によかったって思ってる」


「……ありがとう」


「だから、理央は俺が守る。安心しろ」


 彼の「守る」という言葉が口先だけでは無かったのを知ったのは翌朝のことだった。

 不安になりながらも眠りについて、翌朝自室から出ると扉の近くで槍を抱えて立っている飛翔の姿があったのだ。


「まさか一晩中、扉の外で見張ってたの?」


「よく眠れたか?」


「眠れたか、じゃないわよ。どうしてそんなことを」


「言っただろ、理央は俺が守るって。龍の巫女は国一番の武人が守っていて簡単には近づけない、って噂が広まれば、きっと皆も諦めるだろうよ」


 それからは飛翔が毎晩、部屋の外で警護してくれた。

 そこまでしなくていいと言ったのだが、警護は仕事の内であるとして譲らなかったので甘えることにした。


 飛翔が睨みを利かせていることが広まったおかげか、興味本位で私の部屋に近づく人は居なくなった。

 私が誰かに襲われる心配もなく眠ることができたのは彼のおかげだ。

 彼の心遣いに深く感謝した。


 そうして、この国に滞在して一か月が経った。

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