第11話:倒れた黒曜
慌てて彼を抱き起こす。褐色肌なのでわかりにくいが唇の色が無く、青ざめているように見える。
「誰かが毒を盛ったのか……?」
宰相がつぶやくように言ったのを翠蓮が咎めた。
「父上、それは――」
「……いや、なんでもない」
「そんなことより早く医者だ! 医者を呼べ!」
青蘭が近くにいた女官に医者を呼ぶように告げた。
すぐに医者が息を切らせながら広間に入ってきて、急いで黒曜の容体を確かめる。
宴はそこで中止になり、黒曜は自室に運ばれた。
寝台で横になって浅く呼吸を繰り返す黒曜に、医者が水を飲ませて盥に吐かせている。
「あの……黒曜が倒れた原因は何だったんですか?」
「おそらく、お体に合わない物を召し上がったのでしょう」
「毒を盛られたんじゃないんですか?」
飛翔と一緒に黒曜に付き添っている私の問いに、医者は冷静に答える。
「いいえ、毒を盛られたわけではございません。しかし我々が当たり前に食べられる物でも、体質によっては毒になってしまう物がありますので、たまたまそれを召し上がってしまったのだと思います」
医者は薬を飲ませると、そのまま横になっているようにと指示を出して退室した。
「飛翔……理央……ごめんね……せっかく楽しい宴だったのに僕のせいで……」
弱弱しい声で謝る黒曜に対し、飛翔が頭を撫でた。
「子どもはそんなこと気を使わなくていいんだよ。大丈夫だからおとなしく寝とけ」
「そうね、飛翔の言う通りだと思う。気にせずゆっくり休んで」
黒曜は苦しそうにしつつも、柔らかく微笑んだ。
「ありがとう……ねぇ、飛翔、理央……僕が眠るまでここに居てくれる……?」
「あぁ」
「うん、傍にいるよ」
伸ばされた黒曜の手を私はそっと握った。
「えへへ……誰かが傍に居てくれるって……いいね……」
そのうちに、薬が効いてきたのだろうか。呼吸が落ち着いてきて、黒曜が眠り始めた。
「理央、後は頼めるか? 俺はこの後、仕事があるからもう行かないといけねぇんだ」
「えぇ、後は任せて」
飛翔が退室してしばらくすると翠蓮が様子を見に来た。
「黒曜さまの具合はどうですか?」
「えぇ、もうすっかり落ち着いて眠ってます」
「よかった……」
黒曜の規則正しい寝息を確認して翠蓮も安心したようだった。
「毒を盛られたわけではなかったとのことでよかったです。しかし念の為、黒曜さまの召し上がる物には気を配らねばなりませんね」
「宰相さまが“誰かが毒を盛ったのか”なんて言うから驚いちゃったわ」
「父は心配性ですからね。冷静に考えたら黒曜さまに毒を盛る理由なんてないはずですが、とっさのことで最悪の事態を考えたのでしょう」
黒曜はこの国を守護する存在なのだから、大切に扱われることはあっても命を狙われるはずはない。
それに黒曜の正体を知るのはごく一部の人間だけだ。他の者は皆、宰相の遠縁の子としか認識していないはずだし。なおさら狙われることなどないだろう。
「何事もなくて本当によかった」
「はい、それはもちろんなのですが……」
私が肩をなでおろしたというのに、翠蓮は深刻な顔で目を伏せていた。
まるでどう言葉を選べばいいのかを考えているかのように。
「理央さま、黒曜さまのことでうやむやになってしまいましたが、実は本来はあの場でお話しすべきことがあったのです」
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