第28話 解決したようだが
現象勃発から鎮静化までどれくらいだったろうか。時計を見たが、はっきり開始時間を見たわけではなかったが、恐らく五分から十分くらいだろう。その間、神社は煙に包まれていた。蒸し風呂みたいな気温になっていた。ところがである。そこいらにいた人は「飾に交じって変な物入ってたんじゃない?」とか「やっぱり晴れたから気温あがったのかな」とか深刻な事態が起きたとは思ってないようである。いや、気付いてないのか。あるいは現象そのものの認識が僕とは違っているとか。一応、現象は収まったと見ていい様子となった。ハタと気づいて学友を見れば、内山は、
「俺、なんかお参りしてから帰るわ」
神妙に肩を落として拝殿の方に向かっていった。
それよりも。なっちゃんさんが見当たらない。辺りを見渡しても。境内を駆けまわり探してみたが、なっちゃんさんは見つからなかった。風間さんに電話をかけてみたが、つながらないし。そうこうしていると、大家さんから電話が鳴った。現象を説明するわけにもいかないから、お焚き上げに来て、ひょんなタイミングでなっちゃんさんとはぐれてしまって、探しても見つからないと、でっち上げでも嘘でもないが適切にかいつまんで途中の重点を省いて早口に一息で相談した。
『こっちでなんとかするから。貴美夫は帰って普段通りにしていればいいよ』
とだけ言うと切られてしまった。
言われてみたものの、できる限りのことはしておかなければならない。なっちゃんさんに電話をかけてもやはりつながらなかった。境内をしらみつぶしに歩き回り、周辺もしばらく探して、帰途についたが、その途中も辺りを見渡しながらだった。けれど、なっちゃんさんはいなかった。
家に着いて契約書を出した。なっちゃんさんの緊急久連絡先を確認した。何度もその番号をスマホに入力しようとしては切った。どうしても連絡できなかった。お預かりしているのに、いなくなったと言うのが怖かったからだ。夜になってなっちゃんさんが帰ってくれば、僕が単に大騒ぎしたに過ぎなくなるし、それはそれでなっちゃんさんの保護者の方には迷惑だ。なっちゃんさんが帰って来る。それなら僕が杞憂を起こして連絡しなくても、それを言い訳にして僕はスマホを触らないようにした。
その日、なっちゃんさんは帰って来なかった。
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