第27話 こんな時に風間さんから電話がかかって来て臨時対応をしなければなくなる
あっけにとられていると、ポケットが騒がしくなった。メールやLINEではない。スマホのディスプレイにはあの人の名前。応答してもしなくてもうっとうしいことに変わりはない。それならばとっとと片付けてしまった方がましだ。
「どうも~お久しぶり。いや、その前に新年の挨拶が先だったね。清水君、あけましておめでとう」
風間さんだ。間が悪いと言うか、間を悪くしていると言うか、何を考えているか分からないと言うか、何も考えてないというか。何もこんな時にかけてこなくても、新年の挨拶ならそれこそ元旦か三が日にすでにしてほしかったものだが、そういうクレームを言っている場合でもない。
「なんか大変なことになってるんだったらさ、これから僕が言うことを実行してほしいんだけど」
こういうところもつかみどころがないのだ。まるで超能力者みたいに見透かしているというか、見透かしたうえでそれにうろたえる僕を見て面白がっているというか。少しだけ気分を損ねた瞬間だった。風間さんのいつものお茶らけた口調の中に真面目な感じがあった。「僕が言うことを実行してほしい」というフレーズだ。
「てかさ~、大学で何学んでるんだって感じだよ、清水君。学部何、学科何、専攻何だよって話だよ。それに、なっちゃんがさ」
すぐにいつもの力の入る肩などまるでないような口調に戻る。
「その! なっちゃんさんがいなくなっちゃったんですよ!」
「だ~か~ら、それもこれもそっちの」
「いいから! 知ってるんなら教えてください」
「せっかちだなあ。えっとね」
ペースを握られていたら話は全く進まない。暗中でもないのに模索しなければならないんだから。風間さんの指示を手短に聞き出すしかない。
「前後不覚な状況なんですけど! 買って来られるわけないでしょ!」
聞いた内容がいまいち理解できないで、大声で非難をした。風間さんは恐らく耳を抑えながら、苦い顔をしているのだろう、
「そこ神社でしょ」
簡明に答えられた。僕はあっけにとられながらも妙に納得してしまった。
「盗むのはどうかとか、言ってる場合じゃないよ。てか、窃盗じゃないしね」
もうほとんどやけくそみたいになった。スマホを通話状態にしたまま、囲いがあったと思われる場所へ早足で近づいた。他の人たちが無言になって手探りに歩いているかもしれないし、内山みたいにしゃがみ込んでいるかもしれなかった、人気を感じられなくなってしまっているとはいえ。緊急事態とはいえ傷害沙汰になるのは本意ではない。おかげか、ぶつかることなく囲いへ。その正面という言い方が正しいのかは知れないが、折り畳みテーブルを見た。睨んだと言った方がいいかもしれない。風間さんに言われたものがあるのだ。酒、塩、米が三方に乗って。僕はコートから財布を取って千円を簡易の賽銭箱に入れて、三方から米の皿を持ち上げると、池の鯉へ餌をまくようにした。次は塩。気分は関取だった。気のせいか、煙が薄くなっている気がした。
最後に酒。
「あ~、酒はね、口に含んで霧吹きみたいに吹いたがいいよ」
スマホから聞こえてくる風間さんの指示がその霧よりも軽薄に聞こえて仕方なかったが僕は言われたまま、四方八方へ吹いた。徐々に僕は頬が熱くなるのを感じていたが止めるわけにもいかなかった。一升分が終わると、煙がほぼ消え、人たちの声もし始めた。まるで今まで眠っていたかのようである。
「風間さん、次は? てか、どうなったら終わるんですか?」
急いて問おうとしたが、
「お疲れ~、あとはどうにでもなるから。また必要なことがあったら連絡するから。じゃ、よろしく~」
霧が晴れても言葉のどこにも爽快さもなく風間さんが電話を切りやがった。舌打ちを我慢してスマホをしまった。
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