ソウちゃん、黒幕制裁のために布石を打つ。
「まぁ、私の可愛いソウちゃん! 嫌な思いをしたわね~、もう大丈夫よ。ただいま」
こうして帰宅後、屋内で待機したソウちゃんの耳と視界に入るは、少し歳を召した貴婦人。
その人は、ソーニアとしての自分に顔がとても良く似ていて、かつこの家ではかなり格上の身分であると見て分かるほど、豪華なドレスに身を包んでいる。
そう。その人こそ、今回の黒幕であろう母親のアメリアであった。
――ソウちゃん!?
と、陰では娘へのその呼び方に疑問を抱いたが、すぐに冷静になった。
ソーニアだから、ソウちゃん。
「おかえり、なさい… どうして、嫌な事があったって分かるの?」
と、ソウちゃんはすぐに感じたその「違和感」について、アメリアに質問した。
するとアメリアは、
「帰りの道中、噂話が聞こえたのよ。きっと皆から嫉妬されているんだわ、可哀想に」
と答えたが、すぐにその心の中が読めた。真意はこうだ。
――当たり前でしょ。だって私が全部そうなるよう、金と権力に弱い大人達に指示しているんですもの。稽古の教官に解任をちらつかせ余裕を失わせているのも、無意味な悪魔学を学ばせ精神的に追い詰める作戦も、全て!
ウフフ。あのヌールという小娘も、かのスルマーン公爵子息と会わせるなんて条件を「結婚を譲るものだ」と勘違いしていて実に愚かだわ。この様子だと、バレていないみたいね。
ソウちゃんは確信した。
この異世界で、自分が一番にざまぁ展開を食らわせるべき相手は、この母親であると。
所詮は小物のヌールなど、二の次である。
ソウちゃんは更にアメリアの目を見つめた。アメリアが、次第に憂い目になる。
――嗚呼、その瞳が憎い。日に日に美しくなっていく姿が、本当に憎たらしいわ。このままだと、私を超える美女に成長してしまう。ダメよ。この伯爵家では、私が一番なのよ!
――!?
――おまけにあの公爵子息にも見
狂っている。心底、気持ちが悪いなと思った。
それが、アメリアの動機であった。ソウちゃんは陰で血の気が引いた。
ヌールが言った様な「男児を望んでいた故の失望」などというのは表向きであり、実際は醜い女の嫉妬によるものだったのだ。それも、男の肉欲に溺れた――。
――こいつ… 自分が産んだ娘だろ? その娘を敵視って頭イカれてんじゃねぇの!?
怒りを覚えたソウちゃんはやがて、そこから1つの作戦を編み出した。
今朝のヌールから読み取った「計画」、そしてアメリアの外面の良さを利用した「誘導」。これらを上手いこと交錯させ、この毒親にざまぁ展開を起こせないかと、一案を講じたのだ。
決行は、翌週のダンス発表会当日。
それまで、ソウちゃんは表向き花嫁修業に励むフリをしてきた。稽古や塾における、理不尽や説教にも耐え続け、分からない部分は人から読心魔法を経て学習するなり、ダンスの技術力等を上げていった。
その成長ぶりは、正に目を見張るものがあった。元々、前世のブラック企業でメンタルを鍛えられてきたのもあり、今や壮一の時とは違う若さのお陰で、テキパキ動けるのだ。
「安心して? 会場に、お母様がこっそり来ている事は、誰にも教えていないから」
と、ダンス衣装に身を包んだソウちゃんが、人差し指でシーッのポーズをしながらアメリアの顔を
「ホント、ありがとうね~ソウちゃん。娘に、そこまでしてもらえる日がくるなんて。ついお言葉に甘えて私、出張先からコッソリ抜け出しちゃった」
なんて、業とらしく喜びを表現するアメリア。今のその人の内心については言わずもがな、ソウちゃんは囁き声でこう続けた。
「実はお… 私、いつも頑張っているお母様のためにあるサプライズを用意したの。休憩時間になったら、会場裏にある林に囲まれた花畑へきて。そこなら誰もいないから」
「そう? 分かったわ。嗚呼、ソウちゃんは自慢の娘よ。私、とっても嬉しいわ~」
こうして、アメリアと別れたソウちゃんが次に向かった先は、コンサバトリー。
――さて。これでヌールが雇った男共が、毒母だと知らずに襲うであろう例の場所への誘導は、ひとまず成功だな。こっちが今日まで読心魔法を使って、色んな所へ布石を打ってきたから、ヌールの護衛共も今頃は俺んちの侍女らと一緒にお茶を嗜んでいる今のうちに。
ソウちゃんはそこで、ほか女性達と優雅に会話をしているヌールを発見した。
そしてすぐに、ヌールの二の腕をガシッと掴み、強引に移動する。
「きゃ! ちょっと、何をするの!」
「あんたに見せたいものがあるから、こっちへ来て」
「は!? というかあなた、さっき教官から休憩時に移動するよう言われたでしょ!」
「ふーん。なんでそんな事をあんたが知ってるの?」
「ギクッ…!」
と、ヌールの表情が突然気まずくなる。
そんな相手の事情などお構いなしに、ソウちゃんはヌールをコンサバトリーから連れ出す。その間、残された女性達は「なに今の」「ちょっと何事?」とヒソヒソ喋っていたが。
「ちょっと、離してよ…! ねぇラシード! ハザミ! 一体どこにいるの!?」
ヌールの護衛達の名前だ。
だが、彼らは一向に現れない。実はそこも全て対策済み。
「ふん、お手洗いにでも行ってんだろ。ちょうど休憩時間だし」
「ふざけないで! 一体、私をどこへ連れていくつもりよ!? 離して! 誰かー!!」
ソウちゃんはここでグイっと、抵抗しては叫んでばかりのヌールを目前へと引っ張った。
そして開き切った瞳の瞳孔で、
「ゴチャゴチャうるせーんだよ。クソアマ」
と、前世さながらの口調と低いトーンで凄んだのだ。
その瞬間、ヌールが「ひっ…!」と悲鳴を上げ、恐怖で肩をすぼめたのであった。
――な、なに今のは…!? まるで、“男”。
そりゃ
そこはもちろん、花畑。
「きゃあぁぁぁ!! 痛い! 痛い! やめてぇぇぇ!!!」
「うるせぇ!! 死にたくないなら大人しくやられてろ!!!」
アメリアが、複数のならず者の男達に四肢を捕まれ、殴る蹴るの暴行を受けている。
彼女は変装しているので、男達はその中身が、自分達の狙っている若いターゲットの方ではないと、全く気づいていない。服はボロボロに裂かれ、あともう少しで裸にされそうだ。
ソウちゃんはその花畑の前で、ようやく足を止めた。
「だめ!! あ、あなた達、その人はちがっ…!!」
ここで、まさかのヌールの自白がでた。
ヌールは先の暴行を見て、手を差し伸べる仕草で、男達をこちらへと振り向かせたのだ。
その瞬間、ヌールは「あ、しまった…!」とばかり、自身の口を両手で覆った。
(つづく)
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