第2章 こんなブスな私でも、転移先で美しい生活していいの!?
まりな、自決を図り異世界転移させられる。
真っ白な空間に、部屋着姿の自分。
壁や天井、床などの概念が存在しない事は、すぐに理解した。
彼女は――
「そっか… 私、やっと死ねたんだ」
まりなは、安堵した表情でそう呟く。
彼女は、自らの死を望んで、ここへやってきたのだった。が…
「何を言ってるの? まだ死んでいないけど」
「ひゃ! だ、だれ…!?」
突然、後方から若い女性の声だ。
まりなは驚きざまに振り向いた。そこにいたのは、長い茶髪にパーカーとホットパンツ姿の、10代半ばと思しき少女であった。
「先に自己紹介をしなきゃよね。私はベリア。この天界を管理する、あなた達の案内人」
「へ…?」
「あなたは、埼玉の公立高校に通う佐藤まりな、だっけ? 度重なる学校でのイジメに耐え切れず、大量の睡眠薬を飲み、自殺を計ったという――」
ベリアと名乗る少女が、そういって手持ちのバインダーに目を通した。
恐らく、そこにまりなの個人情報が載っているのだろう。まりなは戸惑いを隠せなかった。
「あの…!」
まりなは何を思ってか、急にベリアに向かって、ビシッと姿勢を伸ばした。
そして、ベリアへと頭を下げたのだ。
「まだ、私は死んでいないんですよね…? だから、お願いします! 私を、あのまま本当に死なせてください!!」
「え?」
「私、もうあの世界で暮らしたくないんです! 何度誤解だと伝えても、イジメはなくならないし、家族は謝るだけで何もしてくれないし! しかも、私までやってもいない濡れ衣を着せられ、先生やご近所からも見放されて! 私に、誰一人味方なんていなくて…!」
まりなが、自らの死を懇願していくと同時に、目から涙があふれてきた。
生前を思い出すたび、辛くて仕方がないのだろう。だが、ベリアは至って冷静であった。
「ねぇ。私の話、まだ終わってないんだけど」
いかにも辛辣な態度だ。だが、筋は通っているからか、まりなはハッとなる。
「あ… すみません。つい」
まりなは再び顔を上げ、ベリアに謝った。ベリアの説明は続いた。
「確かに、あなたはまだ死んではいないよ。異変を察知した家族が急いで病院へ連れていったお陰で、何とか一命を取りとめたけど、今は薬のせいで昏睡状態に陥っているそうだね」
「そんな」
「だから、その間はずーっと眠ったままで退屈だろうから、私が急遽あなたをここへ招待したってわけ。寝ている間の『夢』としてね。それで本題なんだけど」
そういって、ベリアはバインダーを一旦下ろした。
次に、手をかざした先にパッと巨大スクリーンが発現される。まりなは目を見開いた。
「あなたにはこれから、その姿のまま、このスクリーンに映っている通りの異世界で暮らしてもらう。そこで国を牛耳っている悪党を最低2人以上、お仕置きしてほしいんだよね」
「…はい?」
スクリーン上には、確かにヨーロッパ風の異世界が映し出されていた。
だけど、まりなが認識しているヨーロッパ風の
「あいにく、転移させられる次元がここしかなくてね。説明するとこの国は将来、滅んでしまう運命にある。国の女に魅力を感じない男達が次々と海外へ移住する異常事態が起こっていて、このままだと少子化で国が維持できなくなるわけだ。だから男達を呼び戻し、国の力を取り戻すためにも、あなたにはその原因を作り上げている奴らを…」
「ちょ、ちょっと待ってください! そんな、私みたいな役立たずを転移させて、いきなりそんな責任重大な使命を渡されても…」
と、途端に慌てだすまりな。
突然の提案で、話が突飛しているからだろう。だが、ベリアはなおも冷静だった。
「あなた、歌は得意よね?」
「え? ま、まぁ、一応?」
「その歌に、これから授ける魔法の力で“音をカタチに”できる… たとえば『甘いチョコレートが目の前に』という歌詞を歌えば、その通りにチョコレートが出てくる。なんて魔法が備わっているなら、使い方次第によっては国の権力をも
どう? それなら転移先で充分やっていけると思わない?」
「え… 私に、そんな力が?」
「さすがに何の能力もなしで転移なんてさせないよ。あなたのその歌唱力なら、高いクオリティの形を生成できるはずだから。もし、任務を無事に成功させ、ハッピーエンドを迎える事が出来たらここへ呼び戻し、あなたの願いをなんでも1つ叶えてあげるよ!」
まりなにとっては、元きた世界での苦労が、まるで嘘のようであった。
しかも、ハッピーエンドの先には願いが叶うという、一筋の希望の「光」。それを信じ、転移先で暮らしてもいいかもしれない。そんな風に、期待しはじめている自分がいた。
「願い――。それって、例えばイジメや前科を取り消してくれる願いでも、なんでも?」
「それについては、任務を成功させてからでも良くない? とりあえず私を信じてよ」
「あっ… はい。すみません」
なんて、時々注意されながらだが、漸くまりなの方へとベリアの手がかざされた。
「それじゃあ、いくよ?」
ベリアの手の平から生み出された白い光が、まりなの全身を包み込むように巨大化。
やがてそれは、まりなと共に静かにフェードアウトしていったのだった――。
「ふぅ。まったく、心配性なんだから」
ベリアはまた1人、迷える子羊を異世界へと送り出した。
溜め息をつきながらも、再びバインダーに目を通しては、近くに浮遊している魔法の椅子へと座る。その姿は、まるでどこかの世直し執行人だ。
「ここで悪党共の怨念を一気に稼げるといいけど… はて、どうなることやら」
そうぶつくさと独り言をいうベリア。
当然、その言葉を耳にした者は、この天界には誰一人としていないのだが。
(つづく)
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