第29話 ギルド

「これってもしかしてリファイブが送ってきたんじゃないかしら? ダンジョンマスタ―が作った仕様に介入できそうなのって向こう側の人間だけだと思わない?」


 利奈姉の言っていることはもっともだ。仮にダンジョンマスターがダンジョン・スターでの不正をしっかり管理できているならば冒険者登録が出来ているか否かでメールの色を分けていてもおかしくはないだろう。


 差出人名が文字化けみたいになっているのも異世界の言語を入力しようとした結果おかしくなったのではないだろうか?


 この話題をもっと深掘りしたいところだが、異世界の存在を伏せている松澤さんがいる状況で話すべきではないだろう。利奈姉がリファイブの名前を出してしまった事だし、ここは異世界の存在を秘めたうえでリファイブの説明をしておこう。


「あ~、松澤さんには心配を掛けたくなくて言ってなかったっスけど、実はアイリスたんがリファイブって奴らに追われていて守らなきゃいけないんですよ。リファイブが何を狙っているのか俺もアイリスたんもよく分かってないんですけどね」


「リファイブというグループは通常では送れないようなメールを送ってますし、その時点で高位の存在に思えますけど……。本当は淡野さんもアイリスさんも何か情報を伏せ…………いえ、すみません、何でもないです」


 松澤さんは勘が良くて優しいから俺達が何か隠しているのを見破ったうえで追及しないでいてくれるようだ。だが、少し寂しそうな表情をしているから除け者にしてしまったみたいで申し訳なくなってくる。


 だけど、危険な目に合う人間を一人でも減らす為には情報を伏せるしかない以上、我慢してもらうしかない。


 俺もアイリスも利奈姉もかける言葉なくて沈黙していると松澤さんは話を差出人名へと戻す。


「ところで文字化けみたいになっている差出人名ですが、私の予想では文字化けではないと推測しています。というのも文字化けした時に表記される文字は仕様上大体決まっているものなんですけど、差出人名の部分はどれにも該当していません。それどころかパソコンのあらゆる文字や記号表記に該当しないものが使われている気がします」


 確かに言われてみれば文字化けという現象自体が容量2~3byteの『かな・漢字文化圏』でしか起きないものであり、容量1byteの『英語圏』では起きないものだと聞いたことがある気がする。


 そんなにIT知識に詳しいわけではないから断言できないけれど、ダンジョンマスターが超常的な力で俺達の世界に干渉している以上、スマホを使う俺達とは違う方法でリファイブの奴らがダンジョン・スターを利用している可能性は十分にありそうだ。


 そうだったらダンジョンの突入も独自仕様になっているかもしれないから警戒を強めておく必要があるだろう。リファイブ自体に謎が多くて取るべき対策が明確に決まらないのはモヤモヤするが、今はとにかくあらゆる可能性を考慮してやれることをやっておこう。


 松澤さんの鋭い推理に礼を言い、その後も4人で話を続けていると俺の右横から突然ショートケーキを持ったゴツゴツした手が伸びてきて、4つのケーキを丁寧に机へ並べてくれた。俺は視線を横に向けるとそこには喫茶店のマスターである猫田ねこださんが親指を立てて笑っていた。


「4人とも熱心に話し合いを続けているな。話はワシの耳にも聞こえたが、そこのアイリスって子を守る為にリアルでもダンジョンでも気張らなきゃいけないんだろ? そのケーキはワシからの餞別だ。薫のツケにしておくから遠慮なく食べてくれ」


「ちょ、マスター酷いっスよ! いや、でもいつも世話になってるし、これからもここで話し合いをすることが多くなるだろうからちょっとぐらい売上に貢献しておくとするかな」


「良い心がけだぞ、薫。これからもバンバンうちの店に金を落としていってくれよな。で、話は変わるんだが、そこの松澤さんはこれから薫たちと一緒に色々やっていくんだよな? 薫も利奈もワシら商店街の年寄りにとっては可愛い子供みたいなもんだ。手伝えることがあったらワシらもギルドってやつを手伝わせてくれないか?」


「えっ?」


 いつも冷静沈着な松澤さんが今までに見せたことが無い表情で驚いている。商店街は高齢化が進んでいるからダンジョン・スターをやっている人の数は少ないから戦闘面ではあまり期待はできないかもしれない。


 それでも俺達3人のリアルを町ぐるみで守ってくれる存在がいるのはありがたい。将来アイリスが超大人気になってパパラッチ的な存在がやってきたとしても商店街の皆が追い払ってくれたら安心だ。


 俺がマスターの厚意に賛同すると松澤さんも納得してくれたようで2人は固い握手を交わしてくれた。これから先、色々な不安はあるけれど頼もしい仲間も沢山得ることができたというわけだ。


 ここまできたらシェアメイトの絵村たちにも力を借りていいかもしれない。ダンジョン・スターにギルド的なシステムはないけれど、御輿を担ぐような形で大人数が1人を持ち上げる組織を作ってダンジョン・スターを攻略している人達も時々見かけることもある。だからルールに反する行いではないはずだ。


 マスターも交えて5人で話し合った俺達は今日のところは解散する流れとなり、次回の配信は明後日の夜に行われる事となった。俺は改めて「マスターも松澤さんも本当にありがとう」と頭を下げると、2人とも笑顔を返してくれた。


 今日は冒険者生活における頼もしい仲間を沢山得られることとなった。これからギルド的な活動を続けるならばギルド名を考えておいたほうがいいだろうか? と妄想しながら俺達はそれぞれの家へと帰りつく。


 明後日の夜までにはまだまだ時間があるからやれることは色々やっておかなければ。










 喫茶ホークアイでの話し合いから2日後の夜。配信OFF状態でのレベル上げ作業を1日挟み、当日を迎えた俺はいつものように利奈姉の家へと行き、俺、利奈姉、アイリスの3人でダンジョン・スターを起動させた。


 今回配信を行うダンジョンは『吊り橋の洞窟 レベル3』という場所で200mほどある木製の吊り橋を幾つも渡って最奥のボスを目指すダンジョンだ。木製の吊り橋といっても現実の吊り橋より遥かに頑丈でちょっとやそっとの戦闘では壊れはしない。


 あみだくじのように前後左右に広がる吊り橋は景観がよく、下を流れている川も美しい。あとは太陽さえ拝めれば最高のロケーションなんだがダンジョン・スターは基本的に屋内・洞窟内で冒険するものだから太陽が拝めることは無い。


 それでも見渡しがいいぶん、脱出ゲート近くで配信するように努めれば周囲が警戒しやすいからリファイブやゲサンの一味が襲って来ても大丈夫なはずだ。


 一応、アニゲーキングダムの社員3名とシェアメイトの絵村と四令田しれいだにも離れた位置で警戒してもらっているからリファイブに奇襲される心配もないだろう。



 俺達はしばらく吊り橋を進み続け、最奥より少し手前の脱出ゲート前まで来ると早速カメラモードを起動し、利奈姉の挨拶から配信を始めた。


「リスナーのみんな~! こんばんニャン! り~にゃんチャンネルと異世界満喫チャンネルのコラボ配信を始めるよ~。今回は皆から送られてきた要望メールを元にQ&A方式で今後の冒険配信の方向性を決めていくニャン。どしどしコメントを書き込んでニャ~」




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僕の作品を読んでくださっている皆様へ突然の報告となってしまい申し訳ないのですが、現在連載中の【冒険配信者の俺はケモ耳美少女と手を取り合って成り上がるようです ~スキル言ノ葉飛ばし&音玉飛ばしでダンジョン攻略~】を無期限で休載させていただきます。

情けない話ですが全く先が書けないイップスみたいな状態になってしまいまして思い切って休んだり、別作品を書いて感覚を取り戻した方がいいという考えに至りました。

連載を再開する保証はできませんがこれからも腰尾マモルの作品を応援して頂けると嬉しいです。

本当に申し訳ございませんでした。

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冒険配信者の俺はケモ耳美少女と手を取り合って成り上がるようです ~スキル言ノ葉飛ばし&音玉飛ばしでダンジョン攻略~ 腰尾マモル @kajikajita

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