第27話 大量のリクエスト
サイクロプスを撃破し、配信を大成功で終わらせた俺達はダンジョンを脱出して利奈姉の家で目覚めた。起きてすぐにSNSでエゴサをすると想像以上に盛り上がっている様だった。
加えてSNSの色々なアカウントから
とはいえ顔や本名も知らない相手からはイタズラでDMが来ることも多々あるだろう。しっかり確認しておく必要がありそうだ。俺と利奈姉は早速DMを1つ1つ確認してリクエストをまとめる事にした。
まとめ作業をしている間にもDMはどんどんと増えていき、気が付けば夕方になっていた。夕飯時となり、ようやくDMも一旦落ち着きだしたところで利奈姉が依頼と要望を多い順に箇条書きで纏めてくれた。
※1位『ダンジョン内外問わず、り~にゃんとアイリスにコスプレイベントをやって欲しい』
※2位『ライターだからこそ分かる声優やクリエイターの暴露話をして欲しい』
※3位『狩りの片手間でもいいからアニメやゲームのオタクトークをして欲しい』
※4位『炎上レベルで悪い事をした奴に|
※5位『人脈を駆使して有名人とコラボして欲しい』
※6位『ダンジョン・スターの攻略・解説的な活動をして欲しい』
※7位『一部の綺麗な人型モンスターにシーウィード・スライムを使って視覚的に愉しませて欲しい』
嬉しい要望から人の欲望が詰まったリクエストまで様々だ。特にシーウィード・スライムの要望に至っては色欲が天元突破してやがる。だが、個人的には色欲なんてまだまだマシな方だ。俺達のチャンネルに暴露や晒上げを求める人がいることの方がよっぽど悲しい。
色々な要望を前にした俺達3人はその後もどう対応していくか話し合いを続けた。途中夕食も挟んだこともあって気が付けば8時半になっていたようだ。そこそこ話も纏まってきたかというところでアイリスが意外な提案を持ち掛けてきた。
「ねえ、ちょっと聞いて。これだけ方向性の違う要望が集まって、中には不快感すら覚えるメールもあったりしたから最初は正直びっくりしたの。でも、利奈さんもオジサンもずっと優しい言葉で相手を否定せずに対処を考え続けていて私は感心したよ。そんな2人を見ていたら1つ案が浮かんだの。その案っていうのは『今後の打ち合わせをダンジョンで再現する』プランなんだけど、どうかなオジサン?」
「再現? 質問1つ1つの答えを伝えるだけじゃ駄目なのか?」
「それでもいいと思うんだけど、私的には〇〇という要望に対して××という問題があると話し合った結果、モラルを重視して△△の結果になりました……的な感じで伝えた方が2人のオタク愛と良識をリスナーに伝えられる気がしたの」
「いわゆる企画会議系の配信ってやつっスね。そのやり方ならリアルタイムで流れてくるコメントと意見交換も出来ていいかもな。こう見えて俺も利奈姉も炎上を避ける対応力は持っているつもりだし上手くやれるはずだ。そうだろ? 利奈姉」
「そうね、問題ないと思うわ。一応、厄介なリスナー対策を明日の朝アイリスちゃんに教え込んでおくわね。それよりそろそろ遅くなってきたから薫は帰りなさい。貴方はちょっと頑張り過ぎだからしっかり寝るのよ?」
「ああ、心配かけて悪いな。今晩は早めに寝る事にするよ。それじゃあおやすみ2人とも」
俺は2人に別れを告げて帰宅すると、利奈姉の言葉に従ってスマホもゲームも触らず、風呂に入ってすぐにベッドへ横たわった。
まだ22時になったばかりだが、瞼を閉じれば一瞬で眠れそうだ。自分が思っていた以上に疲れていたらしい。利奈姉の方がよっぽど俺の体を分かってそうで本当に頭が上がらない。
※
夢も見ないぐらいに爆睡している俺の耳に『ブブブブッ』と無機質な振動音が飛び込んできた。どうやらスマホをマナーモードにしたまま机の上に置いていたようだ。
壁掛け時計を見た限り、まだ朝の9時だ。仕事の電話や遊びの誘いがくる時間帯ではないはずだ。誰からだろう? とスマホを手に取ると画面に映し出されていたのは松澤さんからの着信だった。
何か緊急事態が起きたのかもしれない。慌てて通話ボタンを押すと松澤さんは挨拶をスッ飛ばして話し始める。
「あ、やっと出てくれた。淡野さん! 今すぐダンジョン・スターのホーム画面を見てください。チャンネル登録者数が凄く増えていますよ!」
まぁ顔出し配信に踏み切ったわけだから、それなりに増えているとは思うが朝っぱらから電話を掛けてくるほどの事だろうか? と若干の面倒くささと眠気をおぼえながら画面をタップした俺は一瞬で眠気を吹き飛ばすこととなった。
驚くことに利奈姉のチャンネルが10万人から11・5万人になっており、異世界満喫チャンネルに至っては4000人から5万人にまで爆増していたのだ。1日で登録者数が10倍以上に膨れ上がった配信者なんてこれまで見たことが無い。
元から有名な芸能人がスタートから大量の登録者を得るパターンはあるけれど、俺もアイリスも芸能人ではないし、俺にいたっては記事を書く仕事がメインだから裏方寄りの人間だ。
そんな異世界満喫チャンネルが何故ここまで登録者数を増やせたのだろうか? 昨日のサイクロプス戦がよっぽど良かったのか、それともアイリスがあまりにも可愛いからだろうか? はたまた他の有名人が拡散してくれたのかもしれない。恐らく3つの理由のうちのどれか、または複合的な原因だろう。
俺は松澤さんへ素直な喜びと爆増した理由の仮説を伝えた。すると松澤さんは納得しつつ今後の予定と要望を話し始める。
「淡野さんの仮説は正しいと思います。そして、仮説が正しいのであれば今こそ大胆に動くべき時です。そこで提案なのですが今日の昼から私と淡野さんとアイリスさんとり~にゃんさんの4人で直接会って話をしませんか? 内容は登録者数を増やす為の話し合いです」
「俺は構わないし2人も承諾してくれるとは思うっスけど、松澤さんにどんなメリットがあるっスか?」
「淡野さんが有名になれば関わりの深い我が社も利益がありますよ。それにアニゲーキングダムは今回のバズりを経て益々3人と関わっていきたいと考えていますからね。具体的にいえば提携番組を増やしたり、イベントに出てもらったりといったところでしょうか。特にアイリスさんの人気は凄いんですよ、あんなに可愛いですから当然と言えば当然ですけどね」
「なるほど、それじゃあ3人でアニゲーキングダムに伺いますね」
「あっ! 淡野さんたちの手を煩わせたくないので私が伺いますよ。仕事を頼みたいのはこちらですからね。場所はいつも通り
そう告げると松澤さんは慌ただしく電話を切った。俺達3人、特にアイリスへ期待を込めているのがヒシヒシと伝わってくる。面識の少ない相手ならアイリスを利用されないか心配になるところだが松澤さんなら心配ないだろう。
俺は顔を洗って水を飲み、一息つくと利奈姉とアイリスに松澤さんの件をメールで伝えた。すると予想通り2人はすぐに了承してくれた。松澤さんから再度連絡が入り、正午に集まることが決まった俺は昼前にアイリスと利奈姉を迎えに行き、商店街の中心部にある喫茶ホークアイへと足を踏み入れた。
昼時なのに客がほとんどいない店内は相変わらず古臭くて西部劇のバーを彷彿とさせる作りになっている。ムキムキの体にスキンヘッドでグラサンを掛けている店長は野太い声で「よう、薫。奥にお前を待っている客がいるぞ」と教えてくれた。
人の事は言えないが相変わらずカタギには見えない店長だ、アイリスに至っては若干ビビっているようにみえる。とはいっても店長は見た目とは裏腹に優しくて面倒見の良い人だから後で紹介する事にしよう。
それよりも今は松澤さんとの話し合いが先だ。入口からはギリギリ見えない位置にある一番奥のテーブルに松澤さんの姿があり、俺たちを見つけた彼女は笑顔でこちらに手を振っている。
俺達が松澤さんのいるテーブルを囲んで座ると、彼女は挨拶もそこそこに早速仕事の話を持ち掛けてきた。
「えー、今日は急な呼びかけに応じてくださり本当にありがとうございます。実は我が社からお願いがありまして伺いました。単刀直入に言います、アニゲーキングダムと協力して新たにネット配信番組を初めて頂きたいのです」
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