第26話 ド派手なデビュー
「濃厚な戦いだったがそろそろ終わらせようぜサイクロプス。さあ、来い! お前が放つ怒りの一撃を防ぎ切ってやるからよッ!」
俺が煽ると同時にサイクロプスは自身の角で作った棍棒を大きく振りかぶった。俺はアイリスほど俊敏ではないし、利奈姉みたいな強烈な魔術で攻撃を相殺することも出来ない。
だから俺が取れる行動はただ1つ……耐えて反撃を叩き込むだけだ。両手に魔力を練った俺は大盾と自分の頭上に巨大なシーウィード・スライムを作り出した。シンプルだが粘性のある液体を大きくすることでサイクロプスの棍棒の威力を下げるしか打てる手はない。
単純な力比べになる事を理解したのかサイクロプスの目はかっ開き、角棍棒は空気を潰す音を発しながら俺へと振り下ろされる。俺は頭上に両手を掲げて叫ぶ。
「耐えてくれ! シーウィード・スライム!」
滝から丸太が落ちてきたかと思うほどの衝撃がシーウィード・スライムに直撃し、粘性の液体が360度に飛び散った。プールの飛び込みと同様、物体が液体に勢いよくぶつかれば衝撃の減少割合は増すはずで角棍棒は初速より大きく速度を落としたが……
「ぐああっ!」
減速してもなお角棍棒のパワーと質量は凄まじく、俺の体は角棍棒と大盾ごと地面に深くめり込んだ。石でできた洞窟の地面が弾け飛び、深いクレーターはサイクロプスの腕力をこれでもかと主張している。
俺の視界は真っ暗になり、腕を筆頭に体中が痛い。クレーターの外からは割れた地面がバリバリと音を立て破壊の規模を教えてくれる。やばい一撃を貰っちまった……と心の中で呟いていると誰かが駆け寄ってくる足音が聞こえた。
「オジサン! 返事してよ! オジサンッッ!」
どうやらアイリスが心配しているようだ。声は涙ぐんでいて心底俺のことを心配してくれているのが分かる。だが、安心してくれアイリス。俺は戦闘不能にはなっていないし、死んでもいない。華々しいデビューを飾る為にもくたばる訳にはいかないからな!
俺はクレーターの中で痺れる手足を気合で動かし、抱き着くように角棍棒を掴んだ。
勝ちを確信したサイクロプスと通夜みたいになっているであろう視聴者たちを驚かせてやる。俺はクレーターの中からありったけの力を込めて角棍棒を前方斜め上へ激しく押し出した。
すると、角棍棒を掴んでいたサイクロプスは突然の押し出しに重心を後ろへ大きく崩して尻もちを着いた。その間に俺は角棍棒の先端から持ち手へと辿るように走り、自身の持つ棍棒に地属性の魔力を込めて角棍棒に触れさせた。
「お前の立派な角を使わせてもらうぜ……纏え!
俺の右手が持つ棍棒に角棍棒の材質が付与され、攻撃力が格段に増した棍棒が完成した。態勢が崩れているサイクロプスに俺の腕力と
俺は思いっ切りジャンプして姿勢が低くなっているサイクロプスの右肩に着地する。そして持ち手が潰れんばかりに
「トドメだ!
持ち手から全身にかけて波打つように走る衝撃がクリーンヒットを確信させる。声にならない声をあげたサイクロプスは殴られたこめかみを抑えながら上半身を地面にどさりと倒す。
サイクロプスの肩から飛び降りて地面に立った俺は起き上がってこないか警戒して武器を構え続けたが、サイクロプスは全身を淡く光らせると光の粒となって消えていった。
遂に俺達はサイクロプスに勝ったんだ! 俺はアイリスと利奈姉の元に駆け寄ってハイタッチし、視聴者に見えるよう武器を上に掲げた。
「俺達の勝ちだ! リスナーの皆、応援ありがとよ! これからも俺達3人をよろしく頼むぜ!」
俺に続けてアイリスと利奈姉も武器を掲げてポーズをとると両チャンネルからコメントが濁流の如く溢れ出し、俺の視界を見たことが無い景色が支配する。
――――マジで凄かったぞ3人とも! これは最推しにならざるを得ないぜ!
――――適正レベルに全然届いてないのに倒し切るなんてヤバすぎだろ!
――――り~にゃんに2人が加われば本当にクリア出来ちゃうんじゃね?
――――ツブッター仲間にアーカイブ勧めてくるわ
――――歴史的瞬間に立ち会えた気分です、これからも全員まとめて応援し続けるね
リアルでもダンジョン・スターでも仕事でも、ここまで褒められたことはない俺はどんな顔をすればいいか分からなかった。
何か気の利いた一言で締めたいところだが、頭が真っ白になり言葉が浮かばなくなっていると利奈姉が肘で俺の服の裾を引っ張り、皆に聞こえないよう小声で語り掛ける。
「ボ~っとしてちゃ駄目よ薫。この後はサイクロプスが落とした宝箱を開けてリアクションしてからチャンネル登録と高評価のお願いをして解散するのがセオリーよ」
利奈姉の言う通りだ、まずは宝箱を開けるとしよう。俺達3人は宝箱に近寄りリスナーが盛り上がる様にカウントダウンをしてから宝箱を開けた。すると中から出てきたのはレアアイテム『独眼鬼の
確か『独眼鬼の
まぁアイテムを持っていれば取引に使うことが出来るから全く無駄な訳ではない……だから凹むのやめておこう。
リスナーが俺らと同じダンジョンに入ってたまたま『独眼鬼の
俺達3人のテンションは下がってしまったが、リスナー達は『ハズレ引いててウケるwww』と楽しそうにしているようだ。だから面白配信としては成功だろう、そう思わないとやってられない。
気を取り直した俺達は再びカメラに目線を合わせると、順番に終わりの挨拶をリスナーへと届けた。3番目に回った利奈姉は前言通りチャンネル登録と高評価のお願いを終えると、深呼吸をし、改まった様子でリスナーへ語り掛ける。
「り~にゃん達はこれからもこんな感じでトップを目指して頑張っていくニャン! り~にゃん達は個性的な3人だし、特に淡野さんのスキルは様々な使い道があるからきっと色々な事が出来ると思うニャ。だから何か頼みたい事がある人は気軽に淡野さんやり~にゃんへメールを送って依頼してね。それじゃあみんなぁ~! またねぇ~~!」
流石は利奈姉、視聴者の中にいるであろう冒険者たちと繋がりが持てるよう最後にサラっと営業を仕掛けて見せるとは。俺達が全閲覧モードを閉じて、配信を切ると早速
色々な事があってハラハラしたが異世界満喫チャンネルとしての初配信は大成功といえるだろう。俺達3人は互いに見つめ合い、再びハイタッチを交わして喜び合った。
「ふぅ~、アタシがり~にゃん状態のまま殴られそうになった時は焦ったけど、無事倒せてよかったわ。二人ともよく頑張ったわね。特に薫の馬鹿げたスキルと機転を効かした
「それを言うなら利奈姉の進行は完璧だったし今日のMVPだと思うぞ。それとアイリスたんは初のボス戦だっていうのに肝が据わっててイカしてたぜ」
「本当? オジサンに褒めてもらえて嬉しいなぁ~へへっ。でも、まだまだダンジョンでの戦闘に慣れていないからもっともっと頑張るね。ところで1つ質問なんだけど
「あ~、それは苦しい声というべきか悦びの声と言うべきか、とりあえず帰ってからゆっくりと……いや、18歳になってから説明しようかな。俺は利奈姉に怒られたくないからな」
「ん? まあいいや。それじゃあ家に帰ろっか!」
なんとか誤魔化しきった俺は直ぐ近くにあった脱出ゲートへと早歩きで近づき、2人と共にダンジョンから脱出を果たした。
今日の激闘と配信は本当に濃いものとなった。きっと何年経っても鮮明に思い出す事が出来るような楽しい思い出となるはずだ。
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