第20話 アニゲーキングダムの松澤



「ありがとう利奈姉。とりあえず俺は明日、お世話になっているゲーム雑誌会社『アニゲーキングダム』に行って公表の事を伝えつつ、力を借りられないか頼んでみようと思う。その時はアイリスたんにもついてきて欲しいっス」


 俺が予定を伝えると利奈姉は「それじゃあ色々決まり次第、告知を手伝うから教えてね」と言い、アイリスも了解してくれた。その後、俺達は雑談を交えつつ配信・探検についての話を終えて、明日の朝に俺が利奈姉の家にアイリスを迎えにいく流れとなった。


 アイリスは夜の暇な時間に俺へ電話してもいい? と尋ねてきたが、今晩の俺は明日の準備と公表の計画を立てなければいけないから相手する事が出来ないと伝えるとアイリスはとても寂しそうな顔をしていた。


 これが俗に言う『仕事が忙しくて子供に寂しがられるパパ現象』なのか。アイリスの相手を出来ないのは辛いし、寂しそうな顔を見るのも辛いが懐いてくれているという感覚は正直気持ちいい。


 ただ、いくら利奈姉やシェアメイトがいるとはいえアイリスも1人で暇を持て余す時もあるだろう。ここは利奈姉からアイリスにアニメの視聴方法とゲームの遊び方をレクチャーしておいてもらおう。


「利奈姉、悪いけどアイリスにアニメとゲームを与えてやってくれないか? お金は後で払うから好きなだけ楽しませてやってくれ。あ、利奈姉の趣味全開のコンテンツばかり布教しないでくれよ? ちゃんとオタク化第一歩に相応しいものを頼む」


「ええ、分かってるわ。純粋なアイリスちゃんへいきなり濃厚なBLを布教したりはしないから心配しないで。万人受けで分かりやすいアニメを観させてあげるわ」


「よろしく頼む、それじゃあまたな利奈姉、アイリスたん。明日は朝から移動するから夜更かしせずに寝るんだよ、アイリスたん」


 俺が別れを告げるとアイリスは弱々しく手を振って「バイバイ……」と、か細く呟き、利奈姉と共に玄関まで送ってくれた。




 自分の家に帰った俺は明日の会話シュミレーションを行い、ツブッター用の公表文章、新しいチャンネルのトップ画やサムネイル作り、日常の原稿執筆などを進め終わると、糸が切れたように眠りについた。










 気が付けば俺は朝の7時半まで寝ていたようだが、机とパソコンを見る限り無事作業を終わらせられていたようだ。


 アイリスを迎えに行くまではまだ結構時間があるし、シャワーと朝飯を済ませておこうと一階へ降りると台所には絵村の姿があった。俺は朝の挨拶を交わすと絵村が訝しげな顔で俺を見つめていた。


「薫殿、何か緊張しているように見えるでゴザルよ。今日は難しい仕事か嫌な顔合わせでもあるのですかな?」


「ルームシェアを5年以上してれば顔色も分かってしまうものなんだな。実は昨日も一昨日も色々あってさ」


 俺は昨日のダンジョン探索から今日の予定まで全てを絵村に話した。絵村はアイリスの正体を伝えた時よりも俺が顔と名前を公表する事の方がずっと驚きが強かったようだ。意外とファンタジーな存在よりも身近な人間の事件の方が衝撃が強いものなのかもしれない。


 それでも絵村は反対することなく、俺の肩に手を置いて応援の言葉を掛けてくれた。


「一大決心で不安も多いと思うでゴザルが薫殿なら大丈夫でゴザルよ。拙者を含むシェアメイトもツブッターで薫殿のチャンネル告知を手伝いますから大船に乗った気持ちでいてくだされ」


「ああ、ありがとな。頑張ってくるよ」


 俺はシャワーと朝飯を済ませるとアイリスを迎えに行くべく家を出た。不思議と寝起きより体が軽い感じ気がする、これはシャワーと朝飯を済ませたからではなく、きっと絵村の言葉で背中を押してもらえた気持ちになったからだろう。


 利奈姉の家に着いた俺は既に玄関前で待っていたアイリスと合流し、最寄り駅から電車に乗り込んだ。通勤時間帯より少し後ということもあり、座ることが出来たから俺はアイリスと今の生活について話すことにした。


「アイリスたん、こっちに来てからの生活はどうっスか? ニルトカシムとの文化の違いに疲れたりしてないか?」


「全然疲れてないし寧ろ楽しいよ。皆優しいし、どういう訳か言葉も通じて文字も読めるから不便もないからね。それに見たことない物ばかりで凄く刺激的だよ。この電車って乗り物とかいっぱい立ってるビルって名前の塔も故郷にはなかったもん。魔石燃料で動く小さなトロッコならあったけど、故郷には雷を使う家具や機械がなかったからね」


 そう言えばニルトカシムの文明レベルについて細かく話したことがなかった気がする。この機会に俺はアイリスへ沢山質問を投げかけることにした。


 その結果分かったのは向こうの世界は電気や石油などの資源を使っておらず、代わりに魔石という火・水・風・地・光・闇のエネルギーが込められた石を産業や生活に役立てているようだ。


 改めてアイリスが異世界から来たんだと思わされた。それと同時に地球や日本の常識もしっかり教え込んでおかないと何かトラブルが起きるかもしれないと身が引き締まる思いだ。


 俺は目的地である出版社でアイリスの正体がバレないように立ち振る舞いを出来るだけ分かりやすく伝えておいた。まぁ会社で変身したり服が脱げたりでもしない限り異世界人だと疑われることはないだろう。


 そうこうしている内に電車は目的地近くまできており、電車から降りて駅を出た俺達は10分ほど歩き続け、出版社アニゲーキングダムに到着した。


 出版社アニゲーキングダムは多方面に事業を展開している。ビルも7階建てということもあり、いつきても大きな会社だなと驚かされる。


 表情が若干緊張気味になってきたアイリスと一緒にビルへ入ると受付のお姉さんはアイリスの姿を見て子供が入ってきたのかと驚いていたが、いつも顔パスで出入りしている俺が説明するとすぐに通してくれた。


 昨日、俺と話す約束をしてくれた編集者さんは談話室に来てくれると受付が言っていたから待つことにしよう。緊張でどんどんと顔色が悪くなっていくアイリスに「今から会う人は悪い人じゃないっスよ」と説明して安心感を与えていると、談話室のドアノブが動いた。


 扉の前には俺がいつもお世話になっている編集者のお姉さん『松澤』さんがこちらを見ながら子供っぽい笑顔で小さく手を振っていた。


 松澤さんは普段からまるでコンシェルジュでもやっているのかと思うぐらいカチッとした見た目と所作をしているから時々見せる無邪気な仕草が凄く可愛い。


 反社会的な見た目の俺にも優しくしてくれてオタク知識も潤沢だから話していていつも楽しい人だ。ゆえに俺の中で結婚したい指数が90ポイントを超える逸材だ。


 松澤さんはテーブルを挟んで俺とアイリスの対面に立つとアイリスに名刺を差し出す。


「はじめまして私はアニゲーキングダムで編集をしております松澤といいます。淡野さんから相談があると伺っております。何でも気軽に話してくださいね」


「あ、あ、ありがとうございます。私の名前はアイリスです。えーと、その今日は……オジサン説明お願い!」


 アイリスは名刺が何か分からず益々緊張感が増しているようだ。緊張する姿が可愛いからこのまま眺めていたいところだがアイリスが可哀想だから、とっとと本題を話す事にしよう。


「松澤さん、落ち着いて聞いて欲しいっス。俺達が来た理由なんですが実は俺、実名と顔を公表したうえでアイリスと一緒にダンジョン配信をしようと思うんです。今日ここへ来たのはアニゲーキングダムで連載を抱える俺が公表に踏み切っても構わないか許可をとりに来たんです」





=======あとがき=======


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