第18話 贋作――フォージェリ――



 『青葉の神殿 レベル5』から脱出した俺、アイリス、利奈姉の3人は侵入地点である利奈姉の家で目を覚ました。


 利奈姉のスキルやアイリスの手首飾りについて話したいところだが、昼時で腹が減っているし何か食べたいところだ。早速俺は2人に外食を提案したけれど利奈姉が想像以上に消耗していたらしく、食事は家で済ませる流れとなった。


 利奈姉だけが激しい戦闘をしていた訳だからバテてしまうのも無理はない、とりあえず俺が冷蔵庫にある食材を使って料理を振舞うとしよう。まずは2人にリクエストを聞いておこう。


「2人は何が食べたいっスか? あと、アイリスたんは食べられない物があったら教えてほしいっス」


「アタシは辛すぎなければ何でもいいわ。あ、でもバテているから脂っこいのとかは勘弁かな」


「私も特に好き嫌いはないよ。しいてあげればモンスターの肉は匂いや味がキツくて苦手かな。といってもニルトカシムでもほとんど食べる人はいなかったけど」


 今、さらっと向こうの世界にはモンスターがいる事実が発覚してビックリさせられた。だが、魔術や獣人族がいる世界なんだから今更驚く事でもないかと自分を納得させることにしよう。


 俺は梅紫蘇と鶏ささみでササッと梅紫蘇巻きを作って振舞うと2人は美味しそうに平らげてくれた。バテている人でも箸が進みやすいように梅で食欲を刺激するのが狙いだったが訳だが無事成功したようだ。


 食事を終えて一息ついた後、体力が回復した利奈姉は自身のスキルについて語り始める。


「それじゃあ食事も終わったし、2人が気になっているアタシのスキルについて説明しておくわね。アタシのスキルは『贋作フォージェリ』って名前でね。名前の通り装備と技を模倣するの」


 利奈姉曰く、贋作フォージェリには2つの使い方があるらしい。1つは装備品の見た目だけを別の装備に変える能力で能力板ステータス・ボードには能力名ミラージュと表記されているらしい。


 利奈姉がサリー状態で装備していた大剣アロンダイトや鎧もあくまで高レアリティの見た目をしているだけで性能はり~にゃん状態の時の装備そのままだそうだ。大剣の性能はステッキそのものであり、硬そうでいかにも物理特化な鎧も性能は元のドレス衣装に準じて魔術防御特化だったらしい。


 逆に言えば魔術防御特化だからこそ親衛隊の一斉魔術に耐えられたとも言えるだろう。


 俺の顔面以上に脅しに向いている能力と言えるかもしれない。だが、バレた時のリスクが大きいから乱用は控えたいところだ。


 そして贋作フォージェリのもう1つの使い方が自身が受けたスキルや魔術を真似するスキルで能力板ステータス・ボードにはスキル名『下手な真似プア・イミテイト』と書かれているらしい。随分と皮肉じみている。


 だが、その名の通り受けた魔術などを真似てもそのままそっくり真似できる訳ではなく、あくまで自身の能力値をベースにして更に8割程度の威力・効果に抑えられてしまうらしい。これが意味するのは超強力なボスモンスターが現れて高威力のブレスなどを喰らっても、そのままの威力でやり返せる訳ではないということだ。


 やはりそのあたりの戦闘バランスはよく出来ていると感心させられる。ダンジョン・スタ―を作った奴はまるでやり手のMMORPG運営のようで、そこだけは尊敬できる。


 これで利奈姉のスキルは大体把握できたからパーティーでの連携の取り方は追々考えていくとしよう。次はローザさんの残した言葉について話し合おうと俺がアイリスに話しかけると、アイリスは何故か頬を膨らませて俺と利奈姉を見つめていた。


「2人だけスキルを持ってるなんてズルいよ! 私もスキルが欲しい! ねぇオジサン、どうやったらスキルって修得できるの?」


「そうか、魔術とスキルの修得方法について説明してなかったっスね。まず魔術は基本的にレベルアップか魔術を修得できるアイテムを拾って使用することで覚えるんだ。だから人によっては魔術修得用のアイテムを高値で売ったりする奴もいるっスね」


「確かに修得済みの魔術修得アイテムを手に入れちゃったら意味が無いから売った方が良さそうだね。あれ? でもダンジョンの中にお金を使える場所なんてあるの?」


「ダンジョンによっては時々装備品やアイテムが買える場所があるっスよ。他にも初歩的な回復アイテムなんかはダンジョン突入前にアプリから購入しておくことも出来るぞ」


「なるほど~、じゃあ次はお待ちかねのスキル修得方法を教えてオジサン!」


「スキルは正直未解明な部分が多いっス。スキルは基本的に汎用型と個性型があって、汎用型は超低確率で拾えるアイテムを使って修得できるから魔術と似てるっスね。そして個性型は他人と被ることがないその人オリジナルのスキルで1人1つしか修得できない代わりに汎用型より強力で尖ったものが多いっス。修得条件も分からなくて最初から覚えていたり冒険していたら突然覚えたりする人も多いみたいっス」


 とは言っても汎用型スキルを1つ以上持っている人は全体の5%未満らしく、個性型を持っている人も1,2割しかいないと巷では噂されている。


 だからあまりこだわり過ぎない方がいいとアイリスに伝えようと思ったが、よくよく考えてみれば獣に変身する能力こそがアイリスの個性型スキルなのではないだろうか? 能力板ステータス・ボードに何か書かれていなかったか聞いてみよう。


「アイリスたんは自分の能力板ステータス・ボードをしっかり確認してみたっスか? もしかしたら獣に変身する力こそがアイリスたんの個性型スキルかもしれないっスよ?」


「う~ん、一応調べてみたけどスキル欄は空白だったよ。それにオジサン達のスキルはダンジョン・スター内でのみ使えるんだよね? 私はこっちの世界でも獣化できるからスキルに該当しないんだと思う。ニルトカシムでも獣化を使いこなせる人は多かったからね」


 そう告げるとアイリスは目の前で銀狼に変身してみせた。初めて肉眼でアイリスの変身を見た利奈姉は事前に情報を得ていたにも関わらず口を開けて驚いている。まぁ明らかに種族やら質量やらが変わっているのだから目を疑うほどに驚くのも仕方がないだろう。


 変化って言葉で思い出したが利奈姉は二つの姿を視聴者の前に晒していたけれど、これからはどちらの姿を主体にして配信を続けていくのだろうか? 聞くのが怖いが一応聞いておこう。


「利奈姉に質問なんだが、これから俺達とパーティーを組むにあたって、り~にゃんとサリーのどちらの姿で戦うつもりなんだ? それにあの変身は何だったんだ? あれもスキルだったりすのか?」


「まさか、戦闘形態を切り替えられる便利なスキルなんて持ってないわよ。あれはり~にゃんのメイクを誰にも見られず落とす為に炎のカーテンを張ったのよ。化粧を落とし終わったらカーテンを解除してサリー状態をお披露目しているだけよ。その方が盛り上がるしね。心配しなくても基本はサリー状態で同行するわ。り~にゃん状態で隣を歩かれると薫も……その……辛いでしょ?」


「うん……まぁぶっちゃけかなりキツイかな。でも、恥ずかしさを抜きにしてもり~にゃん状態はとっておきのタイミングとか非戦闘時にとっておいた方がいいと思うな。スカートの中で膝を曲げて低身長のフリをしながら近接戦闘ができるほどモンスターは優しくないからな」


「耳が痛いわね……でも、薫の言ってる事は正しいわ。だからこれから先り~にゃん状態になった時は魔術主体で戦うからしっかり前衛で守ってちょうだいね薫。それじゃあアタシの話はここまでにしてアイリスちゃんの大事な話に移りましょうか」


 利奈姉が話を振るとアイリスは手首飾りを指で撫で、表情を険しくしてローザの映像について話を始める。


「それじゃあ、皆が気になっているおとぎ話について話すね」



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