第16話 脅しに近い取引
親衛隊の放った魔術をコピーしたかのような利奈姉の高威力氷魔術は避ける暇もなく俺と親衛隊を飲み込んだ。
「「うわあああっっ!」」
リーダーと俺が奏でる悲鳴という名の汚い二重奏は氷塊の雨によってかき消され、轟音の後には大ダメージを受けた俺と親衛隊の姿があった。リーダーの傍に居た魔術士2人は戦闘不能になっており、リーダーも立ち上がることが出来ない程にダメージを受けている。
比較的頑丈な俺は何とか立つことはできるものの、
この威力から察するに利奈姉の放った魔術は親衛隊が放ったものより明らかに威力が上がっているようだ。利奈姉に聞きたいことは山ほどあるし説教だってしてやりたいが、それより先に残った3人グループを片付けなければいけない。
俺は冷えきった体を軋ませながら残りの親衛隊の近くまで歩いていくと、遅れてやってきたアイリスと利奈姉が合流して親衛隊を取り囲んだ。
利奈姉のコメント欄は『トドメを刺せ』『装備を奪ってからやっちまえ!』と過激な言葉が飛び交っているものの、利奈姉は首を振り、大剣を親衛隊に向けて語り掛ける。
「コメントはトドメを刺せと言っているけどアタシは刺すつもりないわ。アタシの大剣アロンダイトを親衛隊の汚れた血で染めたくないもの。だから約束しなさい、もう二度と馬鹿な真似はしないと」
剣先を向けられた親衛隊は互いの顔を見合うと3人同時に土下座して謝り始めた。コメントは最高潮で盛り上がっているものの、利奈姉の顔は苦しそうだ。やはり本当はこんな事やりたくないのだろう。
3人の土下座を見届けた利奈姉が帰るように指示を出すと親衛隊3人のうち2人はお辞儀をして足早に去っていったものの、1人だけ残って利奈姉を見つめている男がいた。
まだ何かちょっかいをかけてくるのかと俺は警戒していたものの、男は不思議な質問を利奈姉に投げかける。
「あの、最後に1つ教えてくれませんか? 貴女の大剣アロンダイトはどこで手に入れたんでしょうか? アロンダイトは1~10まであるレアリティの中で9に位置する超レア物です。アロンダイト級のレア物は日本の冒険者でも数える程しか持っていないはずですからどうしても気になって……」
「迷惑かけたうえに詮索までするつもり? アタシの機嫌が悪くならないうちに帰った方がいいんじゃないかしら?」
「す、すみませんでした! 失礼します!」
辛辣な返事を受けた男は転びそうなほどに慌てながら走り去った。情報が命であるダンジョン・スターにおいてレア物の取得場所をタダで聞き出そうとした男は確かに面の皮が分厚いとは思うが、俺も正直気になってはいる。
ハッキリ言って利奈姉は強すぎるのだ。変身、魔術の模倣、超レア装備、何をとっても一流だ。きっと何か反動なり弱点があるとは思うのだが、それは後でゆっくり尋ねるとしよう。
それよりも今は向こうで倒れているリーダーと他2人からゲサンチャンネルの襲撃計画について話を聞くのが先決だ。幸い適度にHPを削ることが出来たから逃げ出されることはないだろう、お話を聞くには絶好の状態だ。
俺とアイリスと利奈姉は再びリーダーのいる位置まで歩いていって彼らを囲むと、ヤンキー座りをした利奈姉が低めの声でリーダーに問いかける。
「ねえ、親衛隊リーダーさん。貴方達の襲撃計画の全容と今のゲサンの様子を教えてもらえるかしら? サービスでカメラモードは切ってあげるから」
そう告げると利奈姉は視聴者たちにゲリラ配信終了の挨拶をしてカメラモードをオフに変えた。冒険者しか見ていない空間にすることでリーダーが情報を漏らしやすくする狙いだろう。
しかし、利奈姉の配慮も虚しくリーダーの男は睨みを利かせて反抗的な言葉を返す。
「全容も何もゲサン様の指示の元、お前らを襲っただけのことだ。ゲサン様も装備を失ってからは新しい装備を整えつつ、復讐の方法を考えているのが現状だ。他に話す事なんて何もない!」
「ふーん、他に話せることはないんだ。リーダーさんはそう言っているけど薫はどう思う?」
「……そうだな、ちょっと状況を整理してみるか」
ようやく本名で呼べるようになった利奈姉が訝しげな表情で俺に問いかけた。正直俺も『他に話す事はない』と言っているリーダーが嘘臭いと思っている。
ゲサンがいくら迷惑系冒険者として人気だとはいっても、たかだか7万人程度の配信者がここまで大掛かりな襲撃計画を立てられるとは思えない。
何故なら、いくら初心者用ダンジョンに狙いを絞っていたと言っても一か所に10人もの冒険者を待機させられるとは思えないからだ。ダンジョンは全難易度で1万を超える数があると判明していて初心者ダンジョンだけに絞ってもゆうに100以上は存在する。
ましてや7万人の登録者の中で冒険者が何%存在して、更にその中からゲサンを崇拝して手を貸してくれる奴が何百人もいるとは思えない。
きっと襲撃計画には裏があり、もっと大きな何かがバックにあると思う。リーダーに口を割らせたいところだが、あれだけ大暴れした利奈姉が脅しても駄目なら厳しそうだ。もうダメージを与えて石化させるぞ! と脅すしかないのだろうか。
しかし、石化による脅しは本当に最後の手段としてとっておきたい。例え相手が悪人だとしても、そんなやり方を繰り返していたら悪い評判が広まっていく可能性があるからだ。
俺は頭の中で立てた仮説をアイリスと利奈姉だけに聞こえるように伝えると2人は納得してくれたらしく「どうにかして暴きたいね」とアイリスが言葉を返してくれた。
だが、利奈姉の脅しが効かない以上、ここは1つ俺が強面属性を利用してリーダーに取引を仕掛けよう。俺は倒れているリーダーの胸倉を掴んで手前に引き寄せ、優しく低い声色で語り掛ける。
「なぁ、リーダーさんよ。本当の事を話して俺達と仲良くしようや。その方がアンタにとってもメリットが多いはずだからさ」
「な、何が仲良くだ! ヤ〇ザみたいな顔していると思ったらやっぱり脅しじゃないか! それに俺が仮に何か情報を持っていて提供したとしてもメリットなんかあるはずないだろうが!」
「いいや、そんな事は無いぞ。より正確に言えば俺達の味方をしないとデメリットが消せないって言った方が正しいかな。よく考えてみろ、ゲサンチャンネル史上一番大きな襲撃計画を大失敗で終わらせた人間を外道者のゲサンが許してくれると思うか?」
「ぐっ……それは帰って報告してみないことには分からないじゃないか」
「仮にゲサンが許したとしてもゲサンの仲間や信者はどう思うだろうな? それに俺の仮説が正しければゲサンには同格以上の仲間か同盟相手が存在しているはずだ。そいつら全てがアンタを許すとは思えないぞ。外道で構成された組織っていうのはな、権力を持った誰か1人にでも怒りを買ってしまえば、容赦なく潰されるんだ。アンタみたいな扱いやすい駒はなおさらだ」
「…………」
リーダーは俺から見て右上の方向を見つめながら考え込んでいる。昔読んだ本で得た知識によると右上を見る時は記憶を思い出している状態だったはずだ。つまり俺が言ったことにリーダーは心当たりがあるのだろう、あと少し押せば上手くいきそうな気がする。
あまり心理学的な駆け引きはしたくないんだが状況が状況だけに仕方がない、ここは飴と鞭を与えつつ時間制限もかけて焦らせることにしよう。
「さあ、どうする? 俺達に情報を漏らしてくれれば俺達がゲサン達を潰してみせるし、アンタの事もある程度守ってやる。逆に断るなら装備を幾つか壊させてもらおうかな。好きな方を選べ、但し5秒以内に味方になると言わなければアンタを守る約束は無しだ。5,4、3」
「わ、分かった! 知っている事は全て話すから勘弁してくれ!」
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