第15話 斬撃のサリーとカウンター
「それでは見せてあげるニャ。斬撃の魔法少女サリーの強さを!」
また新しい設定が出てきた……もうお腹いっぱいだからさっさと終わらせて欲しいものだ。
高々と宣言したり~にゃんはステッキを頭上に掲げると美しい炎のカーテンに身を包み、姿が完全に見えなくなってしまった。
怒涛の展開に見守ることしか出来ない俺とアイリスと親衛隊は炎のカーテンを眺め続けていると中から出てきたのはメチャクチャ強そうな漆黒の鎧と白銀の大剣を携えた利奈姉だった。
り~にゃん用メイクの面影はなく、かといってコスプレショップで働いている時の店長姿とも違うメイクをしており、目元はちょっとだけ花魁っぽい感じだ。こっちのメイクの方がり~にゃんより素のカッコいい利奈姉に近いからずっとこっちでいて欲しいものだ。
利奈姉のコメント欄も最高潮に盛り上がっており
――――サリー様キター!
――――このド派手な入れ替わりと幅広い戦術があるからり~にゃんチャンネルをやめられないんだよな
――――サリー様の方が近接戦向きだからバトンタッチして正解だな
――――り~にゃんも好きだけど、やっぱりオイラはサリー様が好みだ、うほぉぉぉ!
反応を見る限り利奈姉は定期的に『変身』とやらを発動しているようだ。これが利奈姉のスキルなのだろうか? 正直俺は身内がブリッ子している配信を見られるほど精神が強くないから利奈姉の配信視聴は数分で諦めた過去があり、どんなスキルを持っているのかも知らない。
もし、見た目だけでなく能力値や戦闘スタイルも変えられるならとんでもなく優秀なスキルだとは思う。だが、そんなチートみたいなスキルを手に入れられるものだろうか? 今まで色々なダンジョン配信を見てきたけれどダンジョン・スターは割とシビアな作りだから何か裏がある気がする。
でも利奈姉やコメント欄を見る限り勝ちを確信しているようだ、だからここは信用して見学させてもらうことにしよう。俺は一応いつでも飛び出せる姿勢を整えつつ、成り行きを見守ることにした。
利奈姉はり~にゃんとは打って変わって逞しく首の骨を鳴らすと、自身の後方にいる3人グループへ向かって走り出した。
親衛隊は前衛がハンマーを振り、中衛と後衛が魔術で石の矢を飛ばし完璧な連携をみせた。しかし、利奈姉の火を纏った大剣は一撃でハンマーを吹き飛ばし、熱から出る爆風で石の矢の勢いを見事に殺してみせた。
力の差に怯んだ3人の隙を利奈姉は見逃さず、ジグザグ走りで容赦なく一気に斬撃を喰らわして戦闘不能に追い込んだ。
利奈姉……いや、サリーは戦闘不能になって地べたに倒れている3人に剣先を向けるとリーダーの男に取引を持ち掛ける。
「さあ、これであんた達は残り6人だ。今の戦いを見ても分かる通り親衛隊は絶対にアタシに勝てない。今なら見逃してやるからとっとと消えなさい。じゃないと足元で倒れている3人にトドメを刺しちまうよ? いくら腐りきったあんた達でも仲間の石化は避けたいでしょ?」
これで完全にサリーの勝利……だとアイリスもサリー自身も思っていたはずだ。しかし、リーダーの男は俺達の想像を超える言葉を吐き捨てる。
「おい女、お前はゲサン信者の思考を分かってないな。外道に常識や良識は通用しないし、手段も選び放題だ、こんな風にな!」
リーダーの男が親指で後方を指すと氷系の魔力を高密度に練った魔術士が手のひらをサリーに向けていた。同じくサリーの斜め後ろにいた3人グループも地属性の魔力をこれでもかと練りあげている。
これらの行動が意味すること、それは戦闘不能で倒れた仲間を巻き込む形で魔術を放ち、サリーを倒すつもりということだ。
戦闘不能状態からダメージを受ければダンジョン探索失敗扱いとなり現実の肉体が長期間石化する事実を知らない奴はいない……つまり、親衛隊に仲間意識なんて無く、あるのはゲサンへの忠誠とくだらないプライドだけなのだ。
気が付けば俺は魔術を止めるべく走り出していた。しかし、俺の足ではとてもじゃないが妨害が間に合いそうにない。諦めるつもりはないけれど走る俺の心臓を悔しさが締め付ける。
そんな俺の沈んだ気持ちを晴らしてくれたのはアイリスだった。アイリスは高速で俺の横を駆け抜けると目にも止まらぬスピードでリーダーの傍にいる魔術士の1人に飛び蹴りをかまして詠唱を妨害してみせた。
しかし、それ以外の魔術士は詠唱を完了させ、高めに高めた魔力を利奈姉に向かって解き放ってしまった。利奈姉は夥しい数の氷塊と石の矢に襲われ、爆発にも似た轟音と共に煙に飲み込まれてしまった。
「ちくしょぉぉっっ!」
気が付けば俺は怒りと悲しみの咆哮をダンジョンに響かせていた。親衛隊は絶対に許さない、俺が一人残らず潰してやる……骨が軋むほど拳を強く握った俺はリーダーに向かって走り出した……しかし、リーダーの顔を見た瞬間に俺の足は止まる、それは何故か……リーダーが利奈姉の方を向いて恐怖に顔を歪めていたからだ。
リーダーの視線につられて俺も利奈姉の方へ向くと、利奈姉はボロボロになりながらもなんとか両足で立っていた。気が動転していた俺は今更ながら
ダンジョン・スターでは通常時が白色、残りHP二割以下の瀕死が黄色、戦闘不能が赤色、死亡が灰色の文字で表記される仕組みだ。
あいにく
それでも生きてくれてさえいれば問題ない。俺は遅れてリーダーの前に立ち塞がり、両手を広げる。
「倒し切れなくて残念だったな親衛隊。ここからは俺とアイリスも参戦してサリーを守る。死んだ方が楽だと思うくらいボコボコにしてやるから覚悟しておけよ」
俺はリーダーに正拳突きを放つべく腰を深く落とした。ありったけの怒りを一撃に込めてやるぞ、と気合を入れた俺だったがリーダーは何故か俺ではなく、俺の後方を見つめながら声にならない声で震えている。
「うぅぅぅっあああっっ……」
「おい! 何をビビってるんだ! ビビるなら俺の方を見ながらビビれよ。俺の後ろに何があるって…………はっ?」
後ろを振り返った俺の視界には信じられないし信じたくもない光景が広がっていた。なんと利奈姉がさっき被弾した氷魔術のエネルギーを両手に宿してリーダーを睨んでいるのだ。
ギリギリ耐えていただけでも信じられないというのに魔術までコピーするなんて有り得ない。そもそもダンジョン・スターに明記されていたルールでは火属性と水属性、風属性と地属性のように相反する属性の魔術は素養が得られず習得できないはずなのだ。
利奈姉はキャラクターだけではなくルールまで超越するとでもいうのだろうか? 利奈姉が凄すぎて俺は何もいえずに硬直することしかできなかった。その間にも利奈姉は魔術を放つ準備を整えて両手をリーダーに向ける。
「さっきの魔術、本当に痛かったわ。お返ししてあげる! 親衛隊よ、喰らって猛省しなさい! ハァァッ!」
利奈姉の手のひらから強い魔力を帯びた氷塊の雨が解き放たれた。怒涛の展開についていけてなかった俺は遅れてある事実に気が付いた、そう、利奈姉の放った魔術に俺も巻き込まれるという最悪の未来に……。
=======あとがき=======
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