第13話 親衛隊
「ねえ、共同チャンネル化するなら3人でアタシのチャンネルを運営しない?」
利奈姉は意外な提案を持ち掛けてきた。利奈姉のチャンネルを共同化するということは利奈姉自身のスターレベルを3分の1まで下げることになる。相当能力ダウンするのは明白だろう。
俺とアイリスは上昇補正がかかるけれども利奈姉が培ってきた人気チャンネルに甘えるのは申し訳ない、ここは気持ちだけ受け取って断っておこう。
「ありがとう利奈姉。でも遠慮しておくよ。折角ここまで高めてきたスターレベルの恩恵を俺達で減衰させるのは忍びないしな。それにアイドル的な意味で大人気の利奈姉が男の俺と共同でチャンネル運営をしていたら男性ファンから嫉まれそうだしな。配信中にやれるのも精々コラボとパーティーを組むぐらいまでだな」
「あ~、正直過激なファンもいるし慎重にいった方がいいかもしれないわね。でも、逆に言えば同性のアイリスちゃんなら共同化しても大丈夫よね? ねぇ、アイリスちゃん、アタシと共同チャンネル化しない?」
利奈姉はよっぽど俺達を守りたいようだ。さっきまで変態チックにアイリスを追いかけていた面影は今の利奈姉には無く、純粋に善意100%で勧誘しているのが分かる。
アイリスも純粋な善意だと理解しているようで頭を捻りながら返事を決めかねている。しばらく返事を待っているとアイリスはハッと何かに気が付いたような顔をして返事を返す。
「気持ちは嬉しいけどやっぱり遠慮しておくよ利奈さん。この決断は利奈さんに遠慮しているからじゃないよ。利奈さんのチャンネルを見据えるとやっぱりほとんどのファンは利奈さんを中心に見たいんだと思うの。そんなファンを私の都合で振り回すのは申し訳ないと思っちゃうかな」
「アタシを見たいファン……か。アイリスちゃんはこっちの世界に来て日が浅いのに視聴者心理をよく理解しているね。きっと思いやりの精神が強いんだろうね」
「褒め過ぎだよ利奈さん。それにね、私の力でオジサンのチャンネルを大きくしてあげたい気持ちもあるの。私が頑張れば頑張るほどオジサンの為になるんだなって思うとやりがいもあるし」
アイリスの言葉を受けた俺は子供なんていないのに親孝行をされた親みたいな気持ちになってきた。それぐらいアイリスの言葉は嬉しかった。アイリスを救いたい気持ちが一層大きくなった俺は今までどうしても出来なかった『決断』を選択したいという気持ちになっていた。
利奈姉とアイリスの話し合いが終わったタイミングで俺は覚悟を決めて2人に告白する。
「2人とも聞いてくれ。俺はチャンネル共同化と同時にチャンネル名を変える。新しいチャンネル名は『
自分でいうのもなんだが俺はそれなりに知名度のあるライターだ。ペンネームは
それでも今までダンジョン配信で身分を明かさなかったのには訳がある。それは今までのライター活動、ラジオ活動では素顔を公表していなかったからだ。
公表しなかった理由はリアルへの危険性を考慮していたのもあるが、一番の理由はいかつすぎる見た目で損をしたくなかったからだ。
道を歩けばすぐに反社会的存在だと誤解され、女性や子供は海を割るモーゼの如く道を左右に開けて逃げていき、怪しい奴からは怪しい取引を持ち掛けられる。
スキンヘッドにしているのだって色々と理由があるし、眼帯で隠しているバツ型の傷も人里に降りてきた野生の熊を追い払った時に出来てしまった傷だから何か悪い事をした訳ではない。社会とは本当に理不尽なものだ。
思い出したくない過去を思い出していると眉尻を下げた利奈姉が改めて俺に確認する。
「確かにライターとしての薫は凄く知名度が高いし、冒険者だと公表すればファンは増えるかもしれない。だけど本当にいいの? 顔を晒して自分を晒すということは今までとは比にならないくらい悪意ある言葉を受けるし、炎上のリスクだってあがるわ。中には理屈が通じないレベルのヤバい奴らに目をつけられる可能性だってあるのよ?」
「流石は今まで身一つで頑張ってきた利奈姉だ、説得力があるな。でも決めたんだ俺は。異界の地で寂しさを堪えながら頑張ってるアイリスたんは絶対に帰してあげたいし、婆ちゃんの石化だって解きたい。その為には今までみたいにひっそりとソロで活動し、身分を公表しない中途半端な冒険スタイルを捨てなきゃいけないんだ。俺はダンジョン・スターをクリアする男だからな!」
「へ~、薫のクセにカッコいいじゃん、見直したよ。薫の覚悟は分かったわ。それじゃあ2人で頑張りなさい。コラボで登録者数を増やしたい時はいつでも言って。マジカル・プリティー り~にゃん様が異なるファン層から視聴者を運んできてあげる」
「ああ、ありがとな利奈姉。あれ? 今更ながら疑問が1つ湧いたんだが、利奈姉は俺とアイリスが一緒にいる時はり~にゃん状態で配信しながら戦うのか? だとしたら結構キツイもんがあるな……」
なんで今まで考え付かなかったのだろう。幼馴染が隣でぶりっ子ボイスを発しながら魔法少女(27歳女性)となって戦う状況は中々の地獄だ。
最悪、一緒に探検している時だけはカメラモードを切って配信しないという手もあるが、登録者数や再生数を増やせる絶好の機会にカメラモードを切るのはいささか勿体ないとは思う。
ここは俺とアイリスが我慢するしかないか……と半分諦めかけた俺だったが利奈姉は意外な言葉を口にする。
「心配しなくても二人の前でり~にゃん状態になることは滅多にないから大丈夫よ。こう見えてアタシは相当念入りにキャラ構築しているの。具体的に言うとマジカル・プリティーり~にゃんは変身できるって設定にしててね、実際にアタシのスキルがそれを可能に――――」
――――やっと見つけたぞ! 淡野 薫! ――――
メタ的な話を続ける利奈姉を邪魔するように荒々しい男の声が飛び込んできた。声が聞こえた方に視線を向けると鎧を装備し、頭にGと書かれたバンダナを巻いた屈強な男が剣をこちらに向けて立っていた。
男の後ろからはぞろぞろと10人程の男女が現れて全員が同じバンダナを巻いている、何の略だろう……ゴ〇ブリだろうか?
俺の名前を呼んでいたから当然俺に用があるのだとは思うが正直全くといっていいほど心当たりがない。仕方なく「何の用っスか?」と尋ねると、最初に現れた男は剣先で地面を叩いて威嚇し、身分を明かす。
「このGと書かれた文字を見ても分からないのかボケ! 俺達はゲサンチャンネルのファンであり、親衛隊だ。ゲサン様に惚れこんだダンジョン冒険者達はゲサン様の指示のもと、淡野を見つけ次第ぶっ殺せと命令されている。アイリスとかいうガキも吊るしあげにするから覚悟しとけ!」
どうやらバンダナのGはゴ〇ブリ未満の害悪冒険者ゲサンの略称だったようだ。恐らくゲサンは俺達がダンジョン初心者であるアイリスに手ほどきする為に初心者向きの洞窟に来ると予測して信者に網を張らせていたのだろう。
小物のクセに半端に知恵があるから厄介な奴だ。とりあえずお引き取り願えないか話してみる事にしよう。
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