第12話 パラメーターと共同チャンネル化



 利奈姉の次に能力板ステータス・ボードで能力値を見せてくれたアイリスはとてつもない能力を秘めていた。




【アイリス・ニルトカシム ステータス】

HP(ヒットポイント/残り体力)805


MP(マジックポイント/残り魔力)1021


STR(ストレングス/力)515


ATK(アタック/合計攻撃力)515


VIT(バイタリティ/生命力・耐久力)876


DEF(ディフェンス/合計防御力)876


AGI(アジリティ/敏捷性)※※6060


INT(インテリジェンス/知力・魔術攻撃力)1051




 何なんだこの飛びぬけた敏捷性は……。確かにアイリスは獣人族という肩書通り動きは早かったが、まさかここまでとは。しかも、数値の横に注釈のマークが付いているようだが一体何なのだろうか?


 俺はアイリスにお願いして注釈のマークをタップしてもらうとメッセージが飛び出し『敏捷性は状態・状況によって上下する可能性あり』と明記されている。


 これはアイリスが獣化できることに関係しているのだろうか? だとしたら更に頼りがいのある存在になりそうだ。


 物理攻撃や耐久面が物足りない印象も受けそうだが、それは俺が優秀な利奈姉と比較してしまっているだけだろう。きっと物理戦闘でも充分戦っていけるはずだ。




 さて、いよいよ最後に俺の能力の発表だ。正直、かなりバランスが悪いからあんまり見せたくないのだが、2人の能力板ステータス・ボードを見てしまった以上、見せない訳にはいかない。



【淡野 薫 ステータス】


HP(ヒットポイント/残り体力)3045


MP(マジックポイント/残り魔力)315


STR(ストレングス/力)2020


ATK(アタック/合計攻撃力)2020


VIT(バイタリティ/生命力・耐久力)3071


DEF(ディフェンス/合計防御力)3071


AGI(アジリティ/敏捷性)503


INT(インテリジェンス/知力・魔術攻撃力)207




 利奈姉とアイリスはコメントし辛そうな顔でこちらを見ている。きっと2人はこう思ってるはずだ『薫は脳筋』すぎる……と。


 利奈姉は自身の能力板ステータス・ボードを消失させると「物理だけは強いわね」と呟きながら俺を見て半笑いの表情を浮かべている。利奈姉に『だけは』は余計だぞツッコんでやりたい。


 ちょっと恥ずかしい思いもしたが、これで能力値発表会は終わりだ。実際には装備・補助魔術・アイテムなどで数値は上下するし、チャンネルの育ち方次第では能力値が2割、3割増しすることもあるから今見た数値はあくまで参考程度だ。


 チャンネル登録者数や人気具合で上昇する項目スターレベルも計算に入れると能力値上昇量はかなり複雑になってくる。そもそもスターレベル自体が単に登録者数だけで決まるものではないし、日によって数値も多少変わってくるから厄介だ。


 俺のチャンネルで言えば登録者数5000人に対してスターレベルは7500になっていて、利奈姉の場合はチャンネル登録者数10万人でスターレベルは12万になっている。


 単純な割合比で言えば俺が2:3 利奈姉が5:6になっているが、これらの個人差が何に起因しているか解明できている者は誰もいない。だから逆に言えば解明さえできればダンジョン・スターを有利に進められる可能性もある。


 色々謎の多いダンジョン・スターだが、とりあえず能力値のバランスが良くてスターレベルの高い利奈姉が一番頼りになるのは間違いないだろう。基本は利奈姉を主軸にした戦術を組んでいくことになりそうだ。


 能力値発表を終えたから次は装備やアイテムについて説明しようと俺はアイリスに視線を向ける。するとアイリスはうなだれて大きな溜息を吐いていた。心配になった俺が声を掛けるとアイリスは落ち込んでいる理由を話しだす。


「私って能力値を見た限り敏捷性以外はへっぽこだから2人に迷惑かけちゃいそうだね……。それに2人と違ってチャンネルを持っていないからスターレベルも0で補正もかからないし。2人についていけるかな?」


 出会ってまだ2日だがアイリスの性格が少しずつ分かってきた。この子は人並み以上に迷惑をかける事を恐れるタイプだ。


 故郷への帰還とリファイブに囚われている仲間達を助ける意志自体は他者の命運が関わっているから強いものの、きっと普段は自己主張の少ない控えめな子供だったのだろう。


 そんな優しいアイリスに悲しい顔をさせ続けるわけにはいかない。ここはアイリスが如何に優秀であるかを解説しつつ、スターレベルの悩みも解消させる言葉をかけてやろう。


「大丈夫、アイリスたんは絶対役に立つっス。まず敏捷性はダンジョン・スターにおいて最も大事な能力値なんだ。なんせ敏捷性さえ高ければ回避・命中・移動、すべてにおいて有利だからな。極端な話、完璧に回避さえ出来ればHPや防御力すら必要ないとも言えるぐらいだ。それにスターレベルに関しても一瞬で増やせる荒業があるっスよ」


「なんか詐欺師みたいな言い回しで怖いけど悪い方法じゃないよね? オジサンの考える方法なら大丈夫だよね?」


「俺が邪悪なのは見た目だけっスよ……。で、その方法なんっスけど『共同チャンネル化』をすれば解決できるっス」


 初めて聞く単語に首を傾げるアイリスに俺は分かりやすく説明することにした。


 共同チャンネル化とはチャンネル主が他の誰かと一緒に自身のチャンネルを運営していく契約の事であり、チャンネル規模によるスターレベルの恩恵は折半となる仕組みだ。


 つまりスターレベル7500の俺がアイリスと一緒にチャンネルを運営していく契約をすれば互いのスターレベルが3750になるわけだ。


 手続きもアプリか能力板ステータス・ボードを使えば簡単に出来るから一見、誰もが手を付けそうなシステムではあるが当然デメリットも存在する。


 一度チャンネルを抜ける、もしくはチャンネルを消去すると1年間新しいチャンネルを持ったり、共同チャンネル化することが出来なくなるルールがあり、スターレベルの恩恵も0になるのだ。だからよっぽど信頼した相手がいる人間しか行わない手法だ。



 これで俺自身の能力値上昇は減ってしまうが、そのぶんアイリスに上昇補正がかかるはずだ。共同チャンネル化の説明を聞いたアイリスはまたもや自分のせいで俺に迷惑をかけるのでは心配になり言葉を返す。


「私のせいでオジサンの能力が下がるのは辛いよ。それなら私は0からチャンネルを育てた方がいいのかも」


「いや、俺の考えには続きがあるっス。アイリスたんには俺の助手としてチャンネルを盛り上げてもらおうと思っているんだ。強面のオッサンが映るだけのチャンネルじゃ華が無いからな。アイリスたんは可愛いからきっと素晴らしい看板娘になってくれるはずだ」


「オジサンの役に立てるなら何でも頑張るよ! 何をやるかサッパリ分からないけどやる気だけは凄く湧いてきたよ! フンッフンッ!」


 アイリスは小さい体でマッスルポーズをとり、笑顔を浮かべている。正直めちゃくちゃカワイイ。アイリスにどんな事をしてもらうかはまだ決めていないけれど無事共同チャンネル化に誘えてホッと一安心といったところか。


 それじゃあ次は実戦を絡めながら魔術とスキルと装備について解説をしてやろうかと足先をダンジョンの奥へ向けると、利奈姉が声をかけて制止してきた。まだ何か話す事があるのだろうか? と視線を向けると利奈姉は何か決心したような顔で俺に提案を持ち掛ける。


「ねえ、共同チャンネル化するなら3人でアタシのチャンネルを運営しない?」



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る