第11話 3通りのダンジョン突入方法



「それじゃあ、お待ちかねのダンジョン突入だ。今回の突入は簡単なダンジョンへ行くのが目的だ。だから3種類ある突入方法のうちの1つ、ナンバー突入を選択するぞ」


 俺の言葉を受けたアイリスは初めて聞く単語に戸惑い、すぐさま尋ねる。


「オジサン、ナンバー突入って何?」


「ダンジョン突入には3種類の方法があると言ったっスけど、その内の1つがダンジョンごとに割り振られた番号を入力して指定のダンジョンへ飛んでいくナンバー突入っス。この番号はダンジョンに入りさえすればすぐに得られるんだけど、そのまま他の人に番号を伝えても意味がないんだ」


「え? 番号は使いまわせないってことなの? それとも一度使ったら二度と使えないとか?」


「前者の理由だな。例えば洞窟Aが12345というナンバーだとしても他の人が入力する時は別の番号を入力しないと洞窟Aには入れないっス」


「良いダンジョンの番号を見つけて番号情報を売ったりすることが出来ないようにしてあるんだね」


「お、そんなやり方をすぐに思いつくなんてアイリスたんゲームの筋が良いっスね。他にもパーティーメンバー全員が突入条件を満たしているダンジョンを自動で選択してランダムに飛ばしてくれるランダム突入っていうのもあるっス」


「ふんふん、なるほど。じゃあ最後のエリア突入っていうのは何?」


「エリア突入は一風変わった突入方法で現実の位置情報を反映したうえで突入するダンジョンが決まる方式っス。例えば俺達の住んでいる渦島市藍舞町うずしましあいまいちょうだけでも東端から侵入するのと西端から侵入するので違うダンジョンが選ばれちまう仕組みなんっスよ」


「ってことは良いダンジョンに入れるポイントを見つけたらそこで狩りや宝探しを繰り返したり、他の人に現実の位置情報を有料で教えてあげたりするといいかもね」


 アイリスは中々地頭が良いみたいだ。確かにアイリスの言う通り良いポイントを交換場をつけて教えたり、良い狩場に籠るやり方を思いつく奴もいるだろう。



 しかし、位置情報を売るのは良い策だが、同じ場所での狩りを繰り返させない仕組みが作られているのがダンジョン・スターの嫌らしいところだ。ダンジョン・スターは一つの宝箱からのアイテム入手は一度きりで、同じモンスターを狩り続けても三十匹までしか経験値が入らない仕組みになっているのだ。



 ダンジョンに出てくるモンスターは基本的に種類が固定だから狩り続けていたら旨味がなくなるわけだ。加えて探索者同士で情報を教え合うことは少なく、ほとんどの人間が自分以外の人間の為に情報を渡すことはないのが現状だ、やはり現実とはシビアなのだ。


 ダンジョン・スターがただのMMORPGなら情報も溢れかえり、最適解がすぐに知れ渡って皆が真似するだろう。中には現実の金や権力に物を言わせて効率よくクリアする者もいるだろう。


 実際に数年前までは各国の政府や軍隊が摩訶不思議なダンジョン・スターの謎を解き明かすべく、莫大な予算と人員を投入していた時期もあった。得体の知れないダンジョンなんてものが身近に存在するのは怖いと感じるものだし、何とかしたいと政治家たちが思うのも無理はない。


 しかし、それらの行動をダンジョン・スターのチュートリアル動画に出ていた管理者らしき男は許してくれなかった。


 どういう力が働いているのかは分からないが日本を含む、各国の大規模なダンジョン・スター攻略部隊はことごとくダンジョンから追い出されてしまい、それどころかダンジョンに再突入することすら出来なくさせられてしまったのだ。


 後日、全ての冒険者・視聴者たちには管理者からのメールが届き




――――我々が望むのは国力に物を言わせたダンジョンクリアではない。あくまで一個人が視聴者という名の味方をつけて高みを目指す姿だ。今後もダンジョン・スターに国や政治を絡めた際は追放処置を取らせてもらう――――




 と書かれた文章で釘を刺されてしまった。この時に俺は改めて管理者の絶対的な力を感じて寒気を覚えたものだ。とにかく俺達は愚直に配信者としての人気とレベルを上げていくしかないというわけだ。


 だからこそ個人個人が必死になるわけで、エリア突入という価値のある情報も簡単には手に入らず、ダンジョン・スターの難しさに拍車をかけている。


 一時期、色んな場所へ片っ端から旅行することで価値の高いエリア突入を見つけ出し、情報を武具やアイテムと交換する事も考えた。しかし、とにかくダンジョン数が多いうえハズレも多く、ダンジョン探索自体が現実でかなり肉体が疲労するデメリットも相まって俺の考えは実現できそうになかった。


 ダンジョン・スターの歴史と俺の過去の失敗を合わせて解説し終えると、新たに疑問が湧いてきたアイリスが質問を投げかける。


「歴史と基本的な仕組みは理解できたよ。でも、1つ引っ掛かるんだけどナンバー突入で簡単なダンジョンに入ろうと思っても個人個人で番号が違うんだよね? それじゃあ同じパーティーで一緒のダンジョンに入れないと思うんだけど、どうやって入るの?」


「良い質問っスね。その答えこそパーティーにあるっスよ。ダンジョン・スターでは突入前にアプリを触ってパーティーを組んだ場合、リーダーの選択で全員が突入するダンジョンが決まるんだ。だから、その都度入りたいダンジョンの番号を知っている奴がリーダーになればいいのさ。リーダーはボタン操作で変えられるから今回は俺がリーダーで突入する。準備はいいか?」


 準備が出来たか尋ねるとアイリスも利奈姉も首を縦に振った。俺は20桁以上あるバカ長いダンジョン番号を打ち込み、アプリアイコンを長押しすると俺達の体は白い光に包まれた。いよいよお待ちかねのダンジョン突入だ。


 いつものように現実の肉体に力が入らなくなり気を失うと俺達の体は現実から消えて異なる位相にある光の川へと運ばれ、石畳と石壁で綺麗に整えられた神殿風のダンジョンへ辿り着いた。


 一応、能力板ステータス・ボードで場所を確認すると、しっかり『青葉の神殿 レベル5』と書かれている。無事に俺が行きたいと思っていたダンジョンに来られたようだ。


 ダンジョンには名前に加えてレベルが表記されていることが多く、今回のダンジョンに表記されているレベル5は初めてダンジョン・スターを起動した者でも余裕で狩りが出来るぐらい簡単なダンジョンだ。


 故に経験者が素人にイロハを叩き込むにはうってつけの場所であり、俺達以外にも冒険者の姿が30人以上はいるようだ。


 さて、アイリスにはまずパラメーターの説明をしてから3人の能力値を共有することにしよう。俺達3人は能力板ステータス・ボードを開くと、まずは利奈姉が能力値を見せてくれた。




【狐崎 利奈 ステータス】

HP(ヒットポイント/残り体力)1244


MP(マジックポイント/残り魔力)2017


STR(ストレングス/力)892


ATK(アタック/合計攻撃力)892


VIT(バイタリティ/生命力・耐久力)1091


DEF(ディフェンス/合計防御力)1091


AGI(アジリティ/敏捷性)1503


INT(インテリジェンス/知力・魔術攻撃力)2085




 ある程度噂に聞いて知ってはいたけれど思った以上に魔術センスが高いみたいだ。他のパラメーターもそれなりに高いことからも利奈姉の隙の無さが伺える。更に利奈姉は俺より良い装備を持っているはずだから装備を全くつけていない今の状態から大幅にATKとDEFがアップするはずだ。


 これなら例え優秀な魔術やスキルを修得していなかったとしても相当戦えるだろう。


「フフ~ン、どうかしら?」


 利奈姉はウザイほどのドヤ顔を俺とアイリスに向けて楽しそうだ。しかし、平均的な能力値を知らないアイリスでは利奈姉の凄さは分からずポカンと口を開けている。


 急に恥ずかしくなったのか利奈姉は慌てて能力板ステータス・ボードを閉じると「さあ、次はアイリスちゃんを見ましょう」と言って急かしはじめる。アイリスは慣れない手つきで能力板ステータス・ボードを前に浮遊させた。


 すると俺と利奈姉は驚きの数値を目にして言葉を失う事となった。



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