第21話 エピローグ 秋のある日のできごと

「……」


 わたしは無言でプリントアウトされた紙の束をどさっとテーブルに放り投げた。


「どう? 面白かったでしょ?」


 期待と不安が入り混じった顔で見つめてくる。いや、でも、ねえ。


「……サブくん、それマジで言ってる?」

「マジに決まってるじゃん」


 ああ、もう、なんでこんなヤツと付き合っちゃったかなあ。わたしは深いため息をついた。この純真無垢な自信がどこから来るかまるで見当がつかない。まるで未知の生物を相手にしているみたいだ。


「はっきり言っちゃうけどね、まるでだめ」

「うそ!?」


 嘘なわけないじゃん。


「誰がどう読んでもこんなのカス以下よ。トイレットペーパーの落書きじゃないんだからさ」

「えー、恵ちゃん、そりゃないよ」


 そりゃないよじゃないよ。こんなクソメタな変態小説でよく賞が取れるとか思ったよね。


「あのさ、一応これでもわたし、国語教師なわけ。高校の。プロの端くれなわけ」

「知ってます」

「そんなわたしに読ませるもんじゃないよ?」

「……もしかして怒ってる?」


 そういう子犬のような目で見てもダメなもんはダメ。


「怒ってるに決まってるじゃん。どうせみんなを巻き込んで書きなぐったんでしょ?   こういうくだらない文章書きたかったら自分一人で書きなさい」

「……反省しています。でも、こんな風になっちゃったのは……」

「シャラップ!」


 わたしの鋭い声に、サブくんはびくっと首をすくめた。


「今すぐみんなに謝って来なさい。それまでおあずけね」


 サブくんはうなだれたまま散らばった紙をかき集めてかばんにしまった。そしてそそくさと立ち上がった。


「でも、まあ、部分的に鋭い描写とかもあったから、まとめる方法とか最初の設定とかをしっかり練ったら、もうちょい読めるようにはなるかもよ」


 わたしはぶっきらぼうに言い放つ。サブくんは消え入るような声で「恵ちゃん、ごめん。お邪魔しました」とだけ言って部屋を出て行った。


 まあ、ダメなもんはダメだったけど、一応書き切っていたしね。次回作に期待ぐらいはしてもいいかもね。


 これは秋のある日の、小さなできごとだった。





(蜜柑組リレー小説 完。 ここまでお付き合いいただき本当にありがとうございました。小説的にはちょっとアレでしたけど、楽しかったです)

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ただ蜜柑に寄り添いたかっただけなんだ! 【蜜柑組リレー】 ゆうすけ @Hasahina214

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