第19話 いよいよ次が最終話!「ありがとう、ラーメン」
無謀だった……あまりにも無謀であり、無防備だった。
「おのれのタマァ、取ったるわァァァァ」と叫びながら、丸腰で森公方にツッコんでいくサブの背中が俺から遠ざかっていく。
サブの先にはこのセカイを覆い尽くし、ねじ曲げ、穿ち、完膚なきまでに破壊した後に新たなセカイに作り替える森公方の、暗黒の闇がうぞうぞと蠢いていた。
俺は体勢を立て直しサブのあとを追う。
「サブッ! お前は俺の弟分だ! 俺より早く死ぬなんて許さねぇぞ!」
「アニキ、ありがとさん。こんなツルピカなオレの頭を気にかけてくれて、ほんまうれしいですわ!」
「誰がお前のなさ毛ねぇ頭なんか気にかけるかっ!」
サブは、笑った。
俺を振り返りグッと親指を立てると、頭をピカリと光らせて、最後に笑った……
声にならないサブの最後の雄叫びは、ただただ無様に森公方の闇に消えて……
「この、ど阿呆がっ!!」
「ぶほおっっっっっっっ!!」
体をくの字に折り曲げたまま、もの凄い勢いで後方へ逃げる海老のように、俺の目の前で大きくバウンドしゴロゴロと後方へ転がっていくサブ。俺からかなり離れた場所で天地逆さにひっくり返ったままピクピクと小刻みに痙攣していた。
いったい、何が起きたんだ……!?
再び森公方を振り返ると、まるで特大ホームランを打った後の大谷翔平のような格好で、あの秋田産最高級ひのき製ラーメンすりこぎ棒極太プロユース40センチ――略称『棒』をぎりりと握り締めるグラサン師匠がいた。
「まったくどいつもこいつも……」
森公方の暗い触手がうしろからグラサン師匠に襲いかかる。それが見えているのかいないのか、グラサン師匠がふわりと棒を振るったかと思うと彼を中心に凄まじい風が渦を巻き、まるで竜巻のようになった。
森公方の触手はグラサン師匠に届かない。すべて風の壁にかき消される。
どんなでたらめなパワーだよ?
もうグラサン師匠だけで勝てるんじゃねえのか?
「馬鹿野郎、相手は最恐マルウェアの森公方だぞ? 貴様も働けロリ眼鏡!」
「勝手に人のモノローグにツッコむんじゃねぇよ!」
まったく、どいつもこいつもは、こっちの台詞だ!
サブもグラサン師匠も放っておけばどこまでもセカイの常識を無視しやがる。ギャグマンガじゃないんだから勘弁してくれ。
「あん? 俺が常識を無視してる、だと?」
「だから、当たり前のように俺の思考を読むなよ」
「違うだろ、それも含めてこのセカイの常識はどこにある? 何人もの創造主の投げっぱなしジャーマンスープレックスのようなこのセカイの常識は……」
「どういう……ことだ?」
「ハゲがアフロになったり、ライダースーツだった俺がいつのまにかライダースジャケットを着ていたり。まあ、俺はこのバッヂやワッペン、数え切れないほどのスタッズでデコレートされたライダースの方がお気に入り……」
「やめろっ! それ以上口にしたら、森公方に取り込まれる前にこのセカイが崩壊する……」
グラサン師匠がO-SAKA-1の遊軍システムだからと言って、あまりにも自由がすぎる。頼むからここにきてメタ発言はヤメてくれ。
森公方の「刺し穿つ死の目」と「貫き屠る死の牙」を軽くあしらい、迫り来る触手さえ軽く去なし、ブンブンと棒を振りながら俺の前まで歩いてきたグラサン師匠は眉間にシワを寄せてチッと舌打ちした。
「ロリ眼鏡がごちゃごちゃとうるせぇ!」
気持ちうつむき、グラサンの上からのぞかせた瞳に殺気が籠もっている。
怖ぇ……目を逸らしたら間違いなく殺られる……
「俺はな、健康のためと言いながらラーメンスープを残すヤツが大っ嫌いだ!」
「知らねぇよっ!」
はぁはぁ……ツッコんでやった。全力で、ハッキリと、言ってやった。
なんでもラーメンに結びつけやがって……
「命を粗末に扱う者が許せない、そう言いたいんだなグラサン師匠は……」
「え、そうなの!? 今のラーメンスープのくだりで!?」
すべてわかった風に言う利美にまで思わずツッコんでしまった。
グラサン師匠の言葉のどこにそんなニュアンスが隠れていたんだよ? どれだけ深読みしてもその答えにたどり着かんわ!
グラサン師匠はニヤリと笑うと俺の肩をバンッ、と叩いた。
痛いわ! 力加減っ! もっとやさしくそっと羽のように手を置けや!
「貴様もハゲも他のヤツらと同じでO-SAKA-1には欠かせない役割があるんだ。どちらかが欠けてもいいワケじゃねぇ! それくらいわかれや、この馬鹿スカポンアホハゲロリ眼鏡!」
悪口が過ぎるっ!
それに、グラサン師匠のせいでハゲはもう虫の息だぞ?
「けど、じゃあどうやって、あいつのコアを攻撃するんだよ! 森公方は対象を書き換えるその瞬間だけコアを外部に露出させるって、俺の可愛いしのぶが言ってたじゃないか!」
「あなたのじゃないって言ったでしょ!」
「ヤダなぁ、しのぶ……照れなくったっ……」
パンッ!!
撃った……微塵も躊躇なく。コラコラ、当たらなかったからって舌打ちするな!
まったく幼女には冗談も通じないのか。この闘いが終わったら俺が手取り足取り組んずほぐれず教えてやらなきゃ。
「と、とにかく、だ。誰かが犠牲にならなきゃ森公方は……」
「ど阿呆! お前は利美としのぶ、どちらかを犠牲にしなきゃいけなかったらどっちを選ぶんだ?」
「は? そんなの選べるワケないじゃなか! 利美もしのぶの俺の可愛い……な、なんだあれは!?」
先ほどまでUベィソンが相手をしていた森公方のコピー――略してコピ公方が、オリジナルの森公方に群がっていた。
オリジナル森公方は次々とコピ公方を暗闇に取り込んでいく。
「グラサン師匠、あんたいったいなにをやったんだ?」
「どっちかを選ぶとか、誰かが犠牲にならなきゃとか、勝手に選択肢を決めてるのはお前自身だ! 覚えておけや、この腐れロリ眼鏡!」
「悪態、酷っ! で、でも、コピーがオリジナルに取り込まれたところで対象の書き換えにはならないだろ? コアが出てくるはずが……出てる!?」
次々とコピ公方を自らに取り込むオリジナル森公方の闇の中央に、神々しく輝く金色の玉が露出しているじゃないか!
「なんでコピ公方で書き換えが起きるんだよ! 森公方のコピーだろ? 書き換える必要なんてないじゃないか!」
「コピーのままだったら、な」
「は? それっていったい……」
「あれを見ろ!」
グラサン師匠が指す先では、さっきまで群がるコピ公方をマチェーテで片っ端からなます切りにしていたはずのUベィソンが、姐さん警官とゴスロリ刑事と共にヤツらになにかを配っていた。
「――!? あれ、は!?」
目を疑った。何度も何度も瞬かせ、目をこすり、頬をつねり、二度三度見てもその光景は変わらなかった。
今まで戦っていたのがまるでウソのように、三人の前に規則正しく列をなすコピ公方たち。
コピ公方はあちこちに腰をおろし、Uベィソンたちから貰ったものを美味しそうに食べていた。それは――カップ麺だった。
「いくらコピーと言えども、オリジナルから離れた時点で多少なりとも個性が生まれるのは当然だろうが! そこにもっとオリジナルとは違う個性を植えつけてやったんだよ!」
「オリジナルとは――違う個性って?」
「ラメーン好きっていう個性だ!」
そんなアホな!
でも、カップ麺を食べ終え満足したコピ公方を、オリジナル森公方が書き換え取り込んだことで金の玉――コアが出てきたことに間違いはない。
しかも、次から次へとコピーを取り込んでいるせいで、まったく攻撃してくる気配すらない。
なんだ、これ? もしかしてチャンスタイム?
「もたもたすんじゃねぇ、てめぇら気合い入れろ! 総攻撃だっ!」
グラサン師匠の号令で真っ先に動いたのは我が愛しのしのぶだった。
その体に似合わぬゴツいライフルを撃つためにうつ伏せになり照準を定めている姿がまた愛らしい……好きだ、しのぶ!
パスッ、パスッ!
ちょっ、待て、なんで俺を狙うんだよ!
「待ってたぜぇ、このときをよぉ~! 今度こそおのれのタマァ、取ったるわァァァァ‼︎」
ハゲ、復活!
グラサン師匠の場外ホームラン並みのスイングを受けて、なんでそんなに元気なんだよお前は?
「太陽反射光線っ!」
強く瞬いたハゲの頭から発射された光が、まるでレーザービームのように森公方のコアを貫く。それを合図に、姐さん警官とゴスロリ刑事が銃を発砲、しのぶがライフルを続けざまに撃つ、撃つ、撃つ!
森公方はビクともしないで相変わらずコピ公方を取り込み続けている。
「うらぁ~!!」
利美がマッスル利美となりそのダイアモンドよりも硬い拳で金玉――金の玉を殴りつける。
Uベィソンがマチェーテ二刀流で舞うように切りつける。
その豊満なおっぱいがプルルンと揺れる。や、別に脂肪なんざどうだっていいんだけど。表情が見えないから見る場所がおっぱいしかないだけで。
O-SAKA-1のメインプロセッサ・サイチャーンの守護プログラムAIのこれだけの総攻撃にも関わらす、森公方は倒れない……どころか、ダメージがあるようにすら見えない。
総攻撃じゃなかった。中でも一番自由で戦闘力が高そうなグラサン師匠の姿が……いた!
は? なにやってんだ、あのおっさん!
「師匠っ! あんた、いったい……」
「ただの保険だ! 貴様も少しは戦え! あと十五分は持ちこたえろよ!」
グラサン師匠は急拵えの厨房で、大きな鉄鍋を振るっていた。
意味がかわらん。俺が戦うよりグラサン師匠が戦った方が森公方を百倍は倒せる可能性があるのに……俺のできることなんて……
「しのぶ、助けてっ!」
しのぶに抱きつき守って貰うことくらいしか……あ……待って……冗談です……ごめんなさい……そんな物騒なもの片付けて……
しのぶが発射した対戦車用ロケット砲がこっちに向かって飛んでくる。
俺は光の速さで森公方のうしろに隠れ……
フラッシュのような強い光と耳をつんざく爆発音と立ちこめる煙。
その中で蠢くのは……
「まったく効いてないじゃないか……」
森公方は弱点であるコアにみんなの攻撃を受けてもなお平然としていた。
そして、すべてのコピ公方を吸収し尽くし、金色に輝くコアが闇に飲み込まれていく。
……終わった。
もう俺たちに勝ち目は……!?
グラサン師匠が森公方の前に立った。
その手には美味そうなラーメンが盛りつけられたどんぶりを持っていた。
「これで……終わりだ……」
グラサン師匠はラーメンどんぶりを森公方の前に置いた。
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