第18話 ラストから3話「タマァ、取ったるわ」


 ──森公方(Mori-Kubou)。それは我らが巨大多元宇宙艦O-SAKA-1と対をなす、古より伝えられし敵性汎用艦型兵器「TockGawer-BackWho」の艦長、通称ショーグン(Show-Gun)が作りし最恐マルウェアの名称だ。

 艦長と言ってもShow-Gunは森の中に住んでいるらしい。全くの謎であるが、そのShow……ああもう面倒くせぇなクソ、その将軍が作った例のマルウェアは一度侵入を許せば最後、内部データは全て書き換えられ、強制的にデータを森公方にする自己増幅特化型AIらしい。


 その森公方は、敵方の脆弱性を瞬時に見極める「刺し穿つ死の目」、そしてその弱点を突く「貫き屠る死の牙」を持っている。

 つまりは目でロックして牙で粉砕する。それが森公方の必勝パターンで、今まで数々の艦が森公方の毒牙に掛かってきた。

 SA-GAMI-1やSU-RUGA-1、味方最強と謳われたTO-KYO-1が墜ちた時はもはや終わりかと思った。そして今回は、我らがO-SAKA-1のメインプロセッサ・サイチャーンの守護プログラムAI「しのぶ」が一部やられてしまい、このような事態に陥ったというワケだ。


 だがさすがは「しのぶ」である。「しのぶ」以外の他艦守護プログラムは一撃で完全に森公方に書き換えられてしまったが、「しのぶ」は辛うじて自我を保った。それはAI「しのぶ」の見た目が完璧で究極の幼女ということで、プリモシステムたる俺──、通称ロリ眼鏡の強力な庇護下にあったからだ。あぁ、プリモシステムがガチロリでよかったぁ。


 そのしのぶが、ロリとは思えぬ冷静な声で言った。あぁ、どんな口調でも可愛いわマジで。ありがとうしのぶ、生まれて来てくれてありがとう。俺たちはAIだが、しかし愛を知るAIで──。


「ねぇ聞いてる? ロリ眼鏡」

「おいおいしのぶ、その言い方はちょっと棘あるんじゃないのか? いっそのこともっと蔑んでくれてもいいんだぜ。『そこのクソペド野郎』とか──」

「ほんっとに救いようのない変態ね」

「うーん、イイね! その意気その意気!」

「なにがその意気よ、完全イッちゃってるくせに。とにかく確認。敵はあの森公方。不覚にも一撃入れられちゃったけど、私のコアは無事。敵は感染させたプログラムを書き換えて全部『森公方』にする能力を持ってる、ここまではいい?」


 落ち着いた表情のしのぶ。あぁ、やっぱりどんな顔をしてても可愛いなぁ。ってそろそろ俺も真剣にならないとな。だらけ切った唇を引き締め、俺はしのぶに言葉を返した。


「あぁ、知ってるよ。そしてアイツだけは許さん、絶対にだ。俺の可愛いしのぶに手をあげやがって、オールデリート待ったなしだ」

「あなたのしのぶじゃないけどね。まぁいいや、とにかくアイツの能力は『増殖』。吸い込まれたら書き換えられてまた森公方として出てくる。でもね、Uベィソンとそのコピーをデリートし続けてわかったの。コピーすればするほどアイツは弱くなるってことにね。ほらあそこ、Uベィソンがコピー相手に無双してるでしょ? 確かにUベィソンは強いけど、あれはもう修羅の領域よ」


 お気に入りのマチェーテを振り回しながら、ホッケーマスク美女が戦場を踊っていた。マスクでその表情は隠れているハズなのだが、俺には嬉々としてマチェーテを振っているのがわかる。コピー森公方の触手みたいな腕がUベィソンを捕らえるが、Uベィソンの気合一杯でバラバラと砕け散るコピー森公方。もはや戦いは一方的だ。


「コピーには私たちを書き換えるチカラがない。逆に言えば私たちを書き換えられ得る森公方はオリジナルってことよ。ほらあれを見て。アイツがその──、オリジナル森公方よ」


 俺はしのぶが指差した方向を見た。ソイツはパッと見でも強者の風格。真っ黒でどこまでも吸い込まれそうな、一条の光さえ逃さない闇そのもの。それがゆらりと蠢いている。


「アイツを叩けば私たちの勝ち。でも気をつけて、触れるとアイツに書き換えられかねない」

「じゃあどうするってんだ? エースのUベィソンはマチェーテでの近接戦闘だけだ。しのぶには銃があるけどケガしてる。ゴスロリ刑事と姐さん警官も銃は持ってそうだけど、闇そのものみたいなアイツに効くのか?」

「多分、普通に攻撃しただけじゃあアイツには効かない。私、自分の一部をアイツに書き換えられてわかったの。オリジナル森公方は対象を書き換えるその瞬間だけ、コアが外部に露出する。しかもその時だけは反撃してこない。そこをピンポイントで叩く、これが対オリジナル森公方のデリート方法よ」

「それってつまり……」

「誰かが囮になるってこと」


 囮というよりは生贄だ。つまり誰かを犠牲にして、その一種に全員の渾身の一撃を結集させるしかない。囮役は誰がやる? 利美はダメだ、利美がやられたら全てが終わる。同時にエースUベィソンも、しのぶもダメ。もちろん姐さん警官もゴスロリ刑事もグラサン師匠もだ。彼ら彼女らには「役割」がある。彼ら彼女らに与えられたそれぞれの役割が。

 だが、俺は。そう俺は──。


「……俺だ。囮は俺しかいない。俺とハゲアフロは利美のサブシステム。サブ2本のどちらがが異常をきたした場合、それを切り捨ててシステムを保全するバックアップ。つまりこの場で死んでもいいのは、やっぱり俺だ。俺はアイツのアニキだからな」


 俺はしのぶの前に立つ。そして蠢く闇そのもののオリジナル森公方と対峙した。オリジナル森公方に体当たりをブチかまして、ワザと乗っ取られる。その瞬間、露出したコアを全員で叩く。それしか方法はないのだから。


「じゃあな、しのぶ。俺、やっぱりロリでよかったよ。システムが復旧して新しいオレになっても大丈夫だ。利美に言っといてくれ。俺は生まれ変わっても、ロリでいたいってな」


 助走をつけて、俺は駆け出す。目標は眼前のオリジナル森公方。あいつだけは許さない。だからこの役目は、俺の──。


「ハッハァ! 悪いのぅアニキィ! ここはオレの出番やろ、オイシイとこ持ってくでェ!」


 大きな声とともに、俺にショルダーチャージをかましてきたのはハゲアフロだった。進路を妨害され、俺の走行ルートはオリジナル森公方から大きく外れてしまう。


 ──やめろハゲアフロ! それは俺の役目だ!


「アニキより優れた弟なんておらへん! せやからここはオレのターンや! オレが死んでも、サイチャーンは死なへん! オレにはもう何もない、髪の毛一本さえなァ!」

「やめろ! お前の出番じゃないッ!」

「悪いなアニキ、いっぺん言うてみたかったんや。鉄砲玉と呼ばれたオレしか似合わんこのセリフ! 見さらせオレのォォォ、一世一代の覚悟をなァァァ!」


 そしてハゲアフロは。そのまま闇へと突っ込んで行く。立ち止まらずに。振り返りもせずに、一直線で。


「──おのれのタマァ、取ったるわァァァァ‼︎」



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