第17話 戻った記憶

 前回みんなが広げまくった風呂敷を頑張ってまとめたのに見事にクラッシュされたので、今度こそクラッシュできないくらいにまとめましたからね。

 さあ、カーニバルの始まりだ。


************



「アニキ、もう思い出したんやろ? まだなん? わかるやろ?」

「思い出した。全部思い出したぜ。俺がグラサン師匠にぶん殴られても死なない理由も。そして俺がこんなにも利美を大切に思う理由もな」


 俺は見るのが辛いほど可愛いしのぶに視線を投げた。


「しのぶ、Uべィソン、お前たちまだ何も思い出さないのか」


 変態露出狂ホッケーマスクはナタを構えたまま「何言ってんだお前」という感じで首を傾げている。その表情はホッケーマスクのためにわからないが、彼女はそのマスクがあってさえ表情が豊かである。もしかしたら下北沢の小劇場で鍛えた舞台役者なのかもしれない。

 ド幼女しのぶの方も年相応の顔で眉根を寄せた。どんな顔をしてもしのぶは可愛い。可愛いは正義。可愛いは尊い。幼女はみんな可愛い。

 ――人間ならな!


「そもそも神谷と姐さんがちゃんと仕事してねえからだろう」


 ゴスロリがフリフリレース付きの黒いエプロンドレスを左右に振りながら「えー」と不満を漏らす。


「だって小っちゃいウィルスくらいならわたしの管轄だけど、ネズミが相手ならセキュリティは姐さんの管轄よ」


 姐さん上司はちょっとムッとした。


「確かにそうだけど、人体で言えば神谷明ちゃんはマクロファージ、わたしは樹状細胞みたいなものでしょ。抗体作るT細胞は会長の仕事じゃない?」

「なんでこっちに振るかな。だいたいこれ人体ちがうし! あんたたちセキュリティチームに任せてあるんだからしっかりしなさいよ。あたしはメインプロセッサ・サイチャーンを正常に稼働させるのが忙しいんだから、なんでもかんでもメインシステムに丸投げすんのやめてくんない?」


 利美がまるでメインシステムのような口のきき方をする。

 ふとハゲアフロを見ると、やはりこっちにサムズアップしている。口元は「アニキ!」と言っている。

 ということは。やっぱり俺は……。


「それを振り分けるのがプリモの仕事でしょうがロリ眼鏡! それをサポートすんのがセコンドのハゲアフロじゃないの! 何やってんのよ、本当に大阪湾に沈められたいの? たかがネズミ一匹じゃないの、さっさと片付けなさいよ、臓器片方売られたいの?」


 この利美の言葉でUべィソンがハッと我に返った……ように見えた。もしもこれが演技なら下北沢の小劇場で以下略。そしてしのぶも「えっ! ちょっと待って!」と叫んだ。


 そうだ、みんなが思い出したのだ。

 巨大多元宇宙艦O-SAKA-1のメインプロセッサ・サイチャーン。

 そしてそのサイチャーンを動かす基幹システム・通称『利美』。今から14年前に作られたたシステム開発者の名を冠したメインシステムである。

 そのメインシステム『利美』をサポートするサブシステムが2本。直接『利美』をサポートするプリモシステムがロリ眼鏡ことこの俺、そしてそのサポートをするのがセコンドシステムのハゲアフロだ。そう、俺はハゲアフロのアニキなのだ。

 この大型システムに侵入してくる小さなウィルスをブロックするファイアウォールがゴスロリ刑事こと神谷明、ファイアウォールを通過したマルウェアを見つけて無効化するのが姐さん上司だ。

 さらに、しのぶとUべィソンは実働部隊である。

 しのぶはランサムウェアの被害に遭った暗号を元に戻す係で、今回はしのぶ自身がやられてしまったため俺たちの一部が暗号化され、記憶が混乱したらしい。

 Uべィソンはスパイウェアが潜り込んで来た時に問答無用でそれを初期化してしまう。以前はスーツを着ているヴィジュアルで表現されていたらしいが、前回の初期化の反動でスーツも消えてしまったらしい。本来は露出狂ではなかったはずだ。


 なぜこんなことになったのか?

 さっきゴスロリ神谷と利美が言っていた――ネズミ――何らかのマルウェアがO-SAKA-1に侵入したのだろう。

 このネズミは真っ先にしのぶを攻撃し、全プログラムを混乱に陥れた。

 ではハゲアフロや俺の記憶が戻ったのはなぜのか。


 どうして俺はあの不自然極まりない登場の仕方に疑問を持たなかったのだろうか。どう考えても、どこから出現したのかわからない『遊軍らしい』現れ方だったじゃないか。

 そう、それこそがあの強面グラサン師匠の功績だったのだ。あいつは外部との通信を一手に引き受ける遊軍システムだ。サイチャーンと交信して有益な情報が得られるかどうかを判断し、必要なら手に入れてくる。

 会社でいうところの警備員のようなもので、鋲のたくさん打ってある黒皮のライダースジャケットを羽織った強面のグラサン男が秋田産最高級ひのき製ラーメンすりこぎ棒極太プロユース40センチで肩をこんこんと叩きながら受付窓口でニヤニヤしながら座っているようなものだ。もうその絵面だけで恐ろしい。俺ならオシッコちびる。

 そのグラサン師匠がO-SAKA-1内部に起こった異変を素早く察知し、真っ先にサブシステムである俺とハゲアフロ、そしてメインシステムの利美を正常稼働に戻すために、少々荒っぽいとは知りつつも秋田産最高級ひのき製ラーメンすりこぎ棒極太プロユース40センチで峰打ち(しかも俺とハゲだけ)の刑にしたのだ。さすがに恐ろしくて利美には手が出せなかったのだろう。

 まさにO-SAKA-1から独立し、独自に動き回っているグラサン師匠からこそできた芸当だ。


 こうして俺たちO-SAKA-1構成システムが正気に戻ったからには、あとは侵入したネズミ=マルウェアを退治するだけだ。

 これだけ高度な戦略を仕掛けてくるネズミだ、恐らくかの有名な最恐マルウェア『森公方(Mori-Kubou)』に違いない。開発者は将軍の血を引き継ぎ、森の中に一人で住んでいるらしい。

 あとはこの森公方をどうやって追い出すか、だ。

 俺が利美とハゲに素早く目を配ると、二人が同時に頷いた。O-SAKA-1メインシステム&サブシステムの底力を見せる時が来たようだ。


********


 クラッシュすんなよ。もう知らねえぞw

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る