第13話 パラレルハゲアフロ、散る。


「ほなオレの最後のセリフやで。はい、見合って見合って──、ファイッ‼︎」


 そう叫んでパラレルハゲアフロ――俺は走り出した。一分一秒でも速くあの場を去りたかったのである。何せ俺は地域課に異動になってしまったのだ。こんなところで油を売っている場合ではない。混沌を極めたあの場をあそこまできれいに整理し、パスを回したのだ。どこからどう見てもお役御免だろう。そもそも俺のような関西弁キャラは書き手泣かせなのである。確かに、エセ関西弁くらいなら、日本在住である程度の教育を受けてさえいれば、誰にだって書くことは出来る。だが、それを真の関西人は許さない。


「ほんまの関西人はそんなこと言わへん」

「いやぁ、そないな言葉、ウチでは使いませんなぁ」

「関西人でもないのに突っ込む時だけ『なんでやねん』とか言うやつ、マジでしばいたろかって思うわ」


 俺は耐えられない。

 良かれと思って、関西人キャラを出せば盛り上がると思って、ただ純粋に関西弁が好きで、それで、せっかく出した陽気な関西人がコメント欄でボッコボコにぶっ叩かれることに、俺は耐えられないんだ! せめて! せめてストーリーの方で叩いてくれ! 口調がちょっと変とかその程度なら、指摘にとどめてくれ! もうむしろ教えてあげてほしい! だってそうだろ!? 誰でも最初は一年生、ドキドキするけど、ドーンと行け、って! ドーンと行った結果なんだよ! ドッキドキドン、一年生! だろ!?


 そんなことを考えながら俺は走った。

 これ以上この世界にとどまって書き手を混乱させてはいけない。『でんがな(まんがな)』とか『でっしゃろ』って、本当にいまでも使われてるやつなのかな? とかストーリーに関係のないところで悩ませたくないんだ!


 と。


「――ぐわぁぁっ?!」


 背中に強い衝撃。

 

 俺は、そのまま前方に弾き飛ばされ、ゴロゴロと道路を転がった。


「な、何だ……?」


 全身の痛みに耐えながら、最後の力を振り絞って顔を上げる。どうしてこういう時、バトル系の少年漫画のキャラは「くっ……、あばらが何本かイッたな……!」とか言えるんだろう。俺は、己の身体にあばらが何本あるかを知らない。その、『何本かイッた』確認はどうやってしたの? わかるもんなの? 俺なら何本か折れたら戦闘を続行出来る気がしないが、どうして彼らは「何本かイッた」と自覚しつつも戦い続けられるのだろう。むしろそういうのって自覚したらもう駄目じゃない? 俺なんて、熱っぽいなって思っても数字として確認さえしなければ動けるけど、見ちゃったら最後、みたいなところあるのに。傷なんかもそう、患部を見ちゃったらアウト。見るまでは「何かズキズキするけどまぁ大丈夫かな?」だったのが、見ちゃったら「あーもう血ィ出てるもん。こんなの歩けるわけないじゃん~」ってなる。


 いや、そんな余計なことを考えている場合ではない。


 なかったのだが、ついついそんなことに時間を割いてしまった結果、徐々に意識が遠のいていった。俺が最後に見たのは、『KAWASAKI』というロゴの光るバイクと、それにまたがるライダースーツのグラサン男だった。


「お前は誰や……」


 関西弁キャラの最後の台詞が、さほど難しくない関西弁で本当に良かったと、そんなことを思いながら、俺は気を失った。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る