第12話 無に帰れ
二組の戦いの火蓋が切って落とされたらしいが、それはあくまで地域課……もとい刑事課から幸運にも地域課に配属されることに決定したどこぞの世界の人のいい警察官であり(そうだろ。取り敢えず異世界にいきなり飛ばされて状況把握して整理して去っていった人間いるか?)、残された人間たちは俺を含めて訳がわからないと突っ立っているだけである。
まず動いたのはUベィソンと利美だった。いや、利美の方が先だ。無惨にも破壊された病室の一角になんとか残った治療器——電気ショック用だろうか——を取り上げ、Uベィソンへ向けたのだ。もう俺の妹には見えない彼女に理性はなく、脳の制御が効いていない。武器と化した機器に標的にされたUベィソンが正当防衛を取るのは当たり前だ。
止めの声が入る間もなく、耳障りな衝撃音が起こった。その場にいる誰もが判断力を失い咄嗟に動けずにいる——だが、ショックで意識を失いそうな俺の視界の隅で動く影があった。
「しのぶ。私はあまりここに取っている時間がない。ただでさえ他の任務が控えているのに重要課題に別世界の任務も停滞なく進めなくてはならない。分かるわね」
「分かってる。大体、この手のメタでロボ的なアクションは姐さんの得手ではないもの。舵を切ったら丸投げして構わないわ」
二人の声はよく聞こえないが、しのぶが深く頷くのは見えた。
「元より地域課があの男を追っていたのは利美へ誘導してもらえばよかったのだから計画は進行している。やや邪魔が入ったけれど、利美を正常に戻すにはあれに仕組まれた力を最大限まで放出してしまわなければならない。ただ、暴走はもっと困る。収拾がつかないからね」
「ああ、だから姐さんゴスロリ連れてきたわけ?」
今度は姐さんの方が同意を示しているようである。何話してんだよ。俺の利美を指さしているあたり、利美をどうこうしようってんじゃないか。それはまずい——あんな姿になっても俺の妹なんだ。
「やめてくれ、利美は本来の利美じゃなくなっているだけだからどうか」
「なら協力しなさいよ。もうこれ以上引き延ばすの嫌なんだから」
ものすごい自分勝手な怒りの形相で姐さんは俺を睨みつける。なんでこんなのに偉そうにされなきゃわからないが、思わず口をつぐんだ隙にしのぶがUベィソンに叫んだ。
「利美の制御を解く! 容赦しないでいい!」
「了解。大丈夫」
そのなりでそれを言うのだろうか。防御できないぞ。
対する利美はと目を走らせると、ゴスロリが利美の背後で攻撃法を指図している。理性がないはずなのに、あろうことかゴスロリの言う通りに利美が動いているのである。
息もつけずその様を見ていたら、後ろから肩をむんずと掴まれた。痛い。
「下手な手出しをしないで。ああなった利美は特定の周波数の範囲に収まる音しか聞き取れない。私たちの組織でそれを出せるのは明だけなの。利美が全力を出し切るよう誘導する。Uベィソンなら確実にそれに対抗できるから」
「出し切る……って出し切ったらどうなるんだ利美は」
「全エネルギーを出し切って仕舞えば、非自然的な状態はそれ以前の状態に近くなる。まずその状態に戻す」
「戻すって……利美は発病したんだぞ!」
「病気にはその原因があるのよ。瘀血を抽出するのと同じだと思ってくれればいい」
いや、無理があるだろうその説明。
「とにかく標的がないことにはエネルギーは発散できない。Uベィソンを標的に設定しておけば他に害は出ない。彼女の弱点は溺れることだけ。でもいざ水に入っても泳げるし、彼女しか狙わないように制御する術を明は知っている。いいわね」
横でしのぶが俺に銃を向けている状態でいいも悪いもあるか。ていうかあのなりで水怖いの? どこのホラー殺人鬼だよ。
「出力されたエネルギーが限界値まできたら、そこを狙う。本来の年齢まで成長するか、十四歳のままかはわからないけれど、少なくとも今みたいに暴走することはなくなるはずよ」
「狙うって何をどうやってその状態にするんだ」
「そこまでが私の仕事でそこから先は別の人たちの仕事だわ」
偉く無責任だな。
呆れ返ってものも言えずにいる俺に向かって、姐さんとやらは嫌な笑いを浮かべて傲然と言い放った。まじで偉そうだな。
「あなたの望みの年齢に制御できるかなんて、あなたの自家薬籠中じゃなくて? エターナル三十五歳のくせに。それにまだここにきていない人間が一人と、もう一人助力があるでしょう」
まさか……まさかこいつは知っていると言うのか。俺が今回の珍現象の中で深層心理に押し込めて置いた事柄を。
俺の恐れを見越したように、しのぶが続けた。
「そんなに待たずに来るはずよ。なんてったって、あれのKAWASAKIは速いからね」
——続——
見直ししている暇なんてないですよう。もうどうにでもなれ!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます