第2話 ハゲ警官がしつこい!

 問題:勤務時間中ゆえTwitterのタイムラインを追えていない状況で、三連休唯一の休日の寝覚めに「羽間さん、次リレーの順番です」と言われた心境を説明せよ。




 ***




「姐さん。ホシを捕まえてるんやけど、全然俺の言うこと聞きまへん。どないしまひょ。応援頼んでもよろしいでっしゃろか」


 コイツ、面倒なことは上司に任せるつもりだな。俺はクレーマーでもモンスターペアレントでもない、ごくごく普通の成人男性なのだが。話をこじらせているのはむしろコイツの方だろう。少しは話のわかる奴が来て、くだらん茶番を終わらせてほしい。一刻も早く、すがすがしい休日の朝を満喫したいんだ。


「近くに待機しとるんですか? さすが姐さんですわ。待ってまんなぁ」


 ほこほことハートマーク作んな。気色悪ぃ。俺が溜息をついた瞬間、そばの壁に弾丸がめり込んだ。


「わぎゃあああああーーっ!」


「姐さん、今日もかっこええなぁ。惚れてまうよ」


 銃声に腰を抜かした俺の横で、ヤツは頬に両手を当てながら歓喜の声を上げていた。逆光になっていて、姐さんと呼ぶ人物は表情がよく見えない。ただ、予想よりも華奢な体格に思えた。


「お前の賛辞は聞き飽きた。さっさと本題に入れ。わしを呼びつけた用件は何じゃ? くだらん理由なら首をへし折るぞ」


「姐さんにとって得しかない情報そやさかい安心してくれへん。俺が取り押さえたこの男は、矢武威謝病院の新生児病棟やあおぞら保育園、なかよし幼稚園でのぞきと盗撮をしようとする危険人物なんや。おまけに往生際が悪く、公務執行妨害やら名誉毀損やら罪を重ねる大罪人で困らされとるっちゅうわけ」


「そんなことしていません!」


 自分のことを棚に上げるな。禿げているものを認めないのは、往生際が悪い以外の何ものでもない。それより、いつの間に盗撮の疑いもかけられているんだ? いくらなんでも盗撮はしないっつーの! 通学路でカメラ向けていたら、不審者のブラックリスト登録されるじゃないか。すれ違う小学生から挨拶されるだけで、俺は満足できるんだ。早く濡れ衣を脱がせて、通学路そばのコンビニへ行かせてくれ。


「ほう」


 姐さんは見定めるように、俺の目の前に立つ。小さくてスレンダーな美人婦警さんかと思いきや、第三ボタンまで開けた痴女だった。シャツの隙間から見えてはいけないピンク色が露になっている。


「なっ! そんな状態でパトロールしてたんですか? 早くシャツのボタン閉めてください!」


 視線を逸らす俺に、姐さんはヤツの頭を叩いた。


「また他人の思考が見えると脅したな? そんな阿呆だから地域課に異動されたというのに。ちったぁ学習せい」


「今度は間違えてまへん! ほんまに俺の第六感が囁いたさかい」


 エスパーじゃなくて思い込みの強い奴か。それなら誤認逮捕させないように上が動くのも無理はない。そもそもコイツを採用した時点で終わっている気がする。姐さんは俺の無実を信じてくれてよかったぜ。


「あのなぁ。幼女マニアのガチ勢は合法ロリも食いつくって、警察学校で習わなかったのか? 正義感に燃える前に、基礎から学び直せ。これ以上、一般人に迷惑をかけんな」


 潔白は証明されたはずなのに、なぜだか嬉しくない。


 俺が複雑な思いを抱えていると、ヤツは姐さんのボタンに手をかけた。


「せやったら、これでどうや」


 はだけたシャツから出てきたのは、わずかに膨らみを帯びた筋肉質の体ではなかった。


「腹筋が割れたショタ?」


 この俺が、見極められなかったなんて。床に拳を叩きつけようとした俺に、ヤツは高笑いを浴びせた。


「立派な証拠や。ショタと間違えた悔しさで我を失うてる。こんな輩を野放しにしてもうたら、警察官になった意味があれへん。姐さんの手柄にしたってください」


「阿呆! 嫁入り前の肌を晒すヤツがどこにおるか! 警察官になった意義を語る前に、早う解放してやれ」


「へ? 姐さんがハニートラップしかけるさかい、てっきり姐さんもノリノリかと」


「ただボタンが外れていただけじゃ! 火炎放射器で燃やしたろか?」


「きゃー! 髪の毛のピンチや」


 逃げ惑うヤツの黄色い声を聞きながら、俺は帰るタイミングを図っていた。カオスすぎて帰るに帰れない。




 ***




 模範解答:舎弟が時間を取らせるのは非常にまずいので、会長の1話目を分析して2時間で書きました。推敲なしで10分で書ける会長すごすぎる……!

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