ただ蜜柑に寄り添いたかっただけなんだ! 【蜜柑組リレー】

ゆうすけ

第1話 始まりのトラブル、謎の禿警官との邂逅

 どうせ薮坂さんのところでぐちゃぐちゃになるんだから、最初っからぐちゃぐちゃにしときます。




 ***




「コラまたんかーい!」


 なぜ俺は追いかけられているのだろうか。何もしていないというのに。


「お前の魂胆など見え見えやー! 止まれー!」


 そいつは俺にタックルしてきた。腰をガッチリつかまれて足がもつれる。


 っていうかその手! 手の位置が! そこ掴むな! 幼女のことを考えていた時にそこを掴むな!


 俺は奴と共にもんどりうって倒れた。


「公務執行妨害って知っとるか。お前それや」


 俺はその警察官に取り押さえられた。衝撃で帽子が吹っ飛んだそいつの頭は禿げていて、日光の反射が眩しかった。





「ほんとですよ、家にも幼女グッズなんて置いてないですし、幼稚園や保育所だって覗いてません。まして病院の新生児病棟なんて行くわけないじゃないですか」


「せやけどな、俺にははっきり見えたんや。お前がこれから矢武威謝病院の新生児病棟とあおぞら保育園となかよし幼稚園に行くんが」


 なぜか俺は近くの交番で話を聞かれている。しかもコイツの言うことがいちいち変だ。


「これからってなんですか、これからって。あんた未来でも見えるんですか」


「未来は見えへん。けど、ろくでもないことを考えとる奴の思考は手に取るようにわかる」


 なんだよコイツ意味不明だよ。


「あんたエスパーかよ」


「近いもんはある」


 こんなのが警察官やってるとか、日本終わりだな。


「日本の警察は事件が起こらないと動けないんですよね。俺まだなんにもしてないし」


「まだ? 何かする気やったんやな?」


「言葉のあやでしょうが! 疑わしきは罰せずでしょう。だいたいこの俺を見て幼女マニアだと思う人がいったい何人いるんです」


「ここに一人いる」


 お前じゃねーか! こんなオッサレーでイケメンな三十五歳のどこを見てそう思えるんだよ。


「とにかく事件が起こる前に確保できてよかったわ」


 いや、勝手に確保すんなよ。


「だいたいあんた地域課でしょ。地域課ってこういうことする権利あるの?」


「俺にはある」


 ダメだ、コイツ日本語通じねえ。


「あんた階級は」


「巡査や」


 下っ端じゃねーか!


「で、俺の罪は?」


「あおぞら保育園及びなかよし幼稚園及び矢武威謝病院新生児病棟を覗こうとした罪やな。軽犯罪法第一条二十三号に該当する者は、これを拘留又は科料に処すると決められとる」


「ちょっと待った、その軽犯罪法ナントカに該当する者ってなんだ」


「正当な理由がなく、人の住居、浴場、更衣場、便所その他人が通常衣服をつけんといるような場所をひそかにのぞき見た者や」


「幼稚園とか保育園とかじゃないですか」


「お着替えがあるやろが。お漏らししたらパンツも脱ぐんやで!」


 はぁ……やっぱ日本語通じねえ。


「誰か他の人呼んでくださいよ。あんたじゃ話にならない」


「俺をハゲやと思てバカにしとるやろ」


 んなわけあるかい!


「ハゲ関係ないでしょ! いいから誰か呼んで来てください!」


「しゃーないな。ちぃと待っとき」


 ヤツはどこかに電話をかけ始めた。

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