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 結局、小テストの点数は振るわず不合格となった。不合格になれば追加課題こそ無いものの成績が引かれるというペナルティーがある。古典は共通テスト以外では使わないので程々でいいと、半ば諦めていた。私の理性も黙認しているといった感じだ。

 そんなこんなで適当に午前を過ごし、昼休みに至る。私は1人で昼食の弁当を食べていた。ふと私は箸を止める。別に空腹が満たされたからではない。顎を動かすのに疲れていたのだ。ずっとぼっちでいると極端に会話量が減少する。それは顎の運動量に直接影響してくるため、顎さえも慢性的な運動不足なのであった。まさかこんな場面にまでぼっちの弊害が来ようとは。

 運動不足克服のため誰かと会話しようにも、私には肝心の相手と語彙が無かった。相手がいないのはどうしようもないとして、語彙に関しては正確には理解語彙は増加しているものの使用語彙は確実に減少及び受験のための語彙へと偏在化しているのだ。故に日常的な会話が出来ない。もしかしたら、これが遠因して会話相手がいないのかもしれない。しかし会話しなければ更に使用語彙が減少するという負のスパイラルに陥る、と言うよりもう既に陥っているのだろう。しかし抜け出すことはもう出来ないし、私の理性はその状況から目を背けるように仕向けていた。

 私はまた箸を動かす。周囲もあまり会話せず黙々と昼食を食べていた。しかしそれは私のクラス特有のもので他のクラスからは騒がしい声が途切れることなく聞こえていた。

 食事を終え、私は誰もいない廊下に出る。廊下の椅子に腰掛け、ただ時間が過ぎるのを待っていた。教室にいれば将来性なんて全く無く、学部そっちのけでひたすら大学名に固執するクラスメイトがネットで見つけた勉強論を堂々と語っている姿が私を苛立たせるのを容易に想像出来たからだ。それらは私の理性とは異なる考え方であるため、耳を貸さないよう強い精神的拒絶を無自覚に生み出しているのかもしれない。

 他クラスの喧騒から隔絶された昼休み前半の廊下は目を閉じて思案に耽るには十分な場所であった。しかし一度目を開ければ某国公立大学のポスターだの偏差値表だの試験の順位表だのが貼られており精神が拒絶しているもので溢れていた。

 私は科目別に貼られた試験の順位表に目を通す。同学年の数百人受けた内の国数英及び3教科と全教科は上位50位まで、地歴公民と理科は上位25位までの順位の者が実名と点数を掲示される。羽倉崎悠里の名は数学と3教科、全教科のギリギリな順位にあった。同じ中学から上がってきた者の名は、当時私よりも成績の良かった者も含めてほぼ軒並みいない事実を考慮すると本来はこれでも嬉しいはずなのに、私の貪欲なる理性は満足することを許さなかった。他科目で名を連ねられなかったこと、連ねたとて中途半端な順位であったこと、飽くまで私を失敗を責め立て続けるのであった。

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