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夕食や風呂などの諸々を終えて、今は1人ベッドの上に至る。LEDに照らされた4畳程度の部屋にあるハイベッドは寝返りを打つ度にギシギシと揺れる。ベッドの下の机には雑にノートやワーク類が放置されていた。
私はベッド寝転がりながら今日一日を思い返そうとしたが、疲れからか断片的にしか思い出せなかった。仕方なく、私はまたSNSを開いた。そこには低レベルな陰謀論を振りかざす投稿を引用する形で批判する投稿があった。気になって見てみると、そこには意味不明な理論の下で何の躊躇もなく幼稚な誹謗中傷をする投稿があった。
COVID-19やそのワクチンが開発されて以降、こういった意味不明な陰謀論が増えたように思える。選民思想を土壌とした、カルト的で有害な思想だ。「ディープ・ステートと呼ばれる闇の世界政府に対抗する。ディープ・ステートはワクチンで人口削減をする。医療従事者は人口削減に加担している。かつてのアメリカ大統領であるトランプ氏(彼らの中では未だに現職の大統領である為、呼び方はいつまで経ってもトランプ大統領)が自分達を救ってくれる。」概ねそんな思想であった。極東の島国に住む黄色人種が共和党の白人至上主義者を崇め奉る姿は非常に滑稽だが、陰謀論者は何一つ疑わず、さも当たり前かのように特に医療従事者に向かって誹謗中傷を繰り返していた。
私はスマホを置き、呆れ返った。よくも理路整然としていないものを盲信できるものだと思った。何より、躊躇わず誹謗中傷できる愚かさに唖然とした。今日だけでなく昨日も一昨日も似たようなものを見たが、その度にこういった感情が湧き上がってくる。
きっと彼らは自分達が特別であると信じたいのだろう。愚鈍な大衆の一員であることを認められない中二病なのだろう。いや、中二病と言わずとも何らかの独自性を見出し、それをアイデンティティにしようと試みるのは何ら不思議ではない。人間にとってそれはごく一般的な行為である。たまたま陰謀論者にとってのそれは大勢に反抗することであったのだ。言うまでもなく、それが誹謗中傷やデマを垂れ流すことを肯定することには全く繋がらないが。
その点で、私はこんなに長い間を生きて、未だに独自性を見出せずにいる。陰謀論者とは違って意味不明に他人を誹謗中傷はせず、真っ当な思想の下で正当に非難しながら生きていると思っていても、所詮は陰謀論者と同レベルであり大衆に変わらない。私の理性はとうの昔からそれに気付いていた。醜い本能的な感情は嫌がったとて、偉大で尊大なる理性様は私が大衆として生きなければならないと今まで何度も説き続けてきたのだ。結局私はそれに逆らえず、こうして大衆に埋もれて生かされている。
私は明かりを消し、暗闇となった部屋で布団に包まった。再びスマホを手に取り、とあるサイトを開きAIに尋ねる。「どうしてアイデンティティを求めようとするの?ほとんどの人間にとって必要なのは独自性よりも汎用性、使い勝手の良さや利用のしがいでしょう?」それにAIが何て答えたかは覚えていない。きっと現実に即していない机上の空論を並べて私を否定したに違いない。だが読み終える前に私は反論を書き始め、書き終えることなく眠ってしまったのであった。
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