3

 パソコンを触っていると途端に壊れて反応しなくなることが多々あって、修理に出したが返ってこず早数ヶ月。実は修理は2回目なのだが、どうも私は道具にまで嫌われているらしい。他にも私がペンを使えば十中八九掠れたり。

 これでも嫌われることへの恐怖は一応あって、嫌われたくないからと誰にも関わらなかったから存在ごと消されてしまった。好き嫌いの反対が無関心とはよく言ったものだ。

 放課後、そんなつまらない事を考えながら、自習の休憩という名目で既にかれこれ10分以上は廊下の椅子に腰掛けている。流石に自習室でスマホを触るのは気が引けた。もちろん、自習とは名ばかりで、実際には出された宿題をしているだけで予習も復習も一切していない。成績が下がった時に言い訳出来るように自習室にいるだけだ。大学の過去問をせっせと解いていたり、知らない問題集を開けている周囲の連中とは雲泥の差である。もっと極端かもしれない。

 自習室特有の重い空気感と沈黙はどうも合わないようですぐ逃げ出したくなる。図書館でも見られる、大人数がいるのに静寂という不自然な空間。エントロピーが極端に小さい空間とでも言うべきか。それらが私は苦手だった。

 かと言って、地元の中学のような、休み時間や授業中問わず永遠と喧騒が包む空間も好きではなかった。

 じゃあどんな空間がいいのかと問われると返答に困る。強いて言うなら授業中の教師の声だけが響く程度の音のなる空間だろうか。静か過ぎずうるさ過ぎず。そんな空間が居心地良くてつい眠ってしまうのだ。

 ふと時間を確認する。午後6時20分を過ぎたところ。私が休憩し始めたのは午後6時ジャストだから、かれこれ20分はつまらないことに思いを馳せていたのだ。あまり長時間席を外していると私の理性は戻るよう警告してくる。しかしどうにも戻る気にはならなかった。スカートを引っ張り、座り直す。

 部活が盛んな運動場に目を向ける。サッカーにテニスにラグビーにと忙しない空間だ。運動がてんで出来ない私には異次元の世界だが、あれが青春というものなのだろうか。

 はぁ……微睡んでいる最中の思考というものは言語化出来ないもので、無駄な思考を無理に言葉にしようとすると脈絡のないものになってしまう。体系的な何かがある訳ではないので、こんなことになるのだろう。でも私にはどうしようもないものであった。

 つい先程まで、直視を拒むような眩しさの9月の斜陽が鋭く私の肌を刺していたかと思うと、今は西に微かに見えるオレンジ色とそれ以外の大部分を占める紺色の天幕が私を中心とする半球を覆う。スマホは午後6時33分を示す。

 私は小さく「Поехалиパイェーハリ!」と呟いた。私と似た名前の人の名言らしい。意味は「さあ行こう」だそうな。私は理性に従い再び自習室に入った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る