1話 試験!

「ペンは剣よりも強しとか言うけど、んな訳ないでしょ。そんなものより、実際に相手を打ち倒せる剣の方が絶対強いに決まってる。当然、あるかどうかすらあやふやな魔法なんかより、ずっと」


 教室で必死に教科書に齧り付きながら、よくわからない独り言をぶつぶつと呟いている。この少女がミヤである。

 彼女はこれから、自身の通う学校の筆記試験を控えている。

 彼女は義務教育こそ終えているが、両親からの勧めで渋々進学したのだ。

 この学校は全日制で、3年間決められた日数を出席していれば自動的に卒業できる仕組みとなっている。

 また、3年間で40~50回行われる通称〈飛び級試験〉を通算で7回合格することができれば、1年生でも卒業が可能なのである。

 裏を返せば、3年経って卒業した者は〈飛び級試験〉をクリアできなかった、所謂落ちこぼれとして世間では扱われる。

 しかし彼女にとってはそんなことはどうでもよく、とにかく学校を抜け出すことで頭が一杯だった。


「くそ・・・・・・こんな学校、さっさと卒業して修行の旅に出なきゃいけないのに。こんなテスト如きに、躓いてられないっての」


 が、彼女がこれまで試験に合格したのは1回のみ。これから控えている試験は8回目である。

 彼女のこれまでを振り返ってみると、寝坊が多く、授業態度も不真面目ではあるが、なんと最初の1回目の試験をパスしている。

 これは歴代でも稀なことであり、勉強嫌いな彼女にとっても、ちょっとした自慢でもある。

 試験科目は国語、医学、魔法の3科目が必須で、他2科目は選択制となっている。何故体育がないんだ、と彼女は不満に思っている。

 ちなみに、試験問題の6割はマーク式で、残り4割が記述式となっており、合格ラインは合わせて7割と言われている。

 恐らく彼女はマーク式の問題を紛れで全問正解し、出鱈目に書いた記述式の答えが1割合っていて、奇跡的に試験をパスしたのだろう。


「ねーミヤ、テストいけそう?」

「ぬああああああああああ黙れぇぇえええええええ抜けるだろ内容がぁぁぁああああああ!」


 ミヤは試験勉強のストレスにやられたのか、周りなど知ったことかと喚き散らしている。

 そんな彼女に語り掛けているのは、同じクラスの女生徒であるハナだ。

 ハナは男女問わず学校の人気者で、才色兼備と言える人間である。ミヤと違って。


「ゴ、ゴメン。正直わたしも今回は自信なくって・・・・・・選択2つはいけそうなんだけど」

「嘘ついてんじゃねぇえええええええこのクソアマがぁあああああああああ貴様は今まで5回もパスして余裕だろうがぁあああああああああ!」

「誤解だよ、全然余裕じゃないって。昨日も一夜漬けで、今だってしにそうだもん。ほら、クマ出てるでしょ、わたし」

「じゃあしねぇええええええええええ貴様のせいでボーダーが上がってんだろうがぁあああああああああああ!」

「いやそれも誤解だって・・・・・・ボーダーはたぶん70点で固定のはずだよ。理事長の息子さんが漏らしてたから間違いないって」


 怒り狂うミヤに対し周囲は訝しげな視線を向ける。


「おいミヤ、ハナさんに絡んでんじゃねえよ。この方はな、このシルディニア魔法学院創設以来の白眉なんだ。迷惑かけんなって」


 ある種の親衛隊とも言える男子達が、ハナを庇う。

 実際に先に声を掛けたのはハナの方だが、普段の行いのせいか、誰もミヤ側に付こうとしない。


「黙れぇえええええええええええこの腐れブ男子どもがぁああああああああああああ消滅しろぉおおおおおおおおおおおお!」


 だがミヤに敵を消滅させる魔法は使えない。彼女の魔法の才は、恐らくゼロと言っていいだろう。

 そして無慈悲にも試験開始のチャイムが鳴り響く。

 試験は5科目。それら全てを合格ライン7割以上で突破しなければならない。

 試験中、彼女はひたすら髪を掻き毟りながら唸り声を上げていた。


 彼女の試験結果については、もはやここで述べるまでもない。

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