第3話

 遅い昼休をとった柳は、病院の食堂で焼きそばパンを買い屋上のベンチにすわった。

 フェンス越しに見える街の風景は、一言で言うと異様であり日本政府特有の重たい腰に唾を吐く。

 もっとはやく政府は動くべきだった。ただの精神病だと一蹴しつづけたツケが目の前の風景だった。


 赤、青、緑、黄……。でたらめな色が混ざり合い、くすんだ茶色になり果てた汚物色。

 世界にべったりとぶちまけられたソレ。本来の色が塗りつぶされて、形状はそのままに汚物色一色に染まった風景。

 建築物に、電柱に、外壁に、窓ガラスに、植物に、車にと、目につくすべての色を塗りつぶし、染め上げられ、世界がヒステリックに悲鳴を上げている。


「いやぁ。色調不良症候群プアカラー・シンドローム攻撃型こうげきがたと言うよりも、テロ型といった方がいいんじゃないかな」


 柳はぼやいて空を見上げた。空はかわりなく青く広がっているからだ。

 しかし次の瞬間、後悔したように表情を曇らせる。燻ぶる感情を誤魔化すように焼きそばパンにかじりつき、呑み込むように咀嚼する。

 柔らかなパンと濃厚なソースが絡み合う麺の触感に気分が幾分ましになり、合間のキャベツやニンジンのシャキシャキとした触感が口の中を小気味よく響かせた。鼻腔をとおる甘いソースの香りに人心地がき、舌に残るソースの後味が脳みそに優しい余韻をあたえる。


 改めて空を見上げる。変わりない青空を背に飛び立つ鳩の群れ。そのうちの何割かが、赤や青といった本来ではありえない色に染まっている。

 危険な兆候だった。無抵抗な動物に手を出す人間の末路は、犯罪史という明確な形でこの世界に出回っている。

 柳が勤務している病院はまだ無事だった。

 医療機関のシンボルカラーである【白】が、色にこだわる彼ら・・・の暴走を抑制してきたのだ。

 が、どこか重たげに羽を動かす赤色の鳩を見つけて、ここもそろそろ危ういと危機感が働いた。


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