第15話 キューピット現る
崇が来てから、更に一週間が過ぎた。
未だに挨拶以外に話しかけられずにいたが、ほぼ毎日
彼女が現ることで、いつでも話しかけられると
どこか安心していたところがあったが、夏休みも残すところ後2日に迫り
僕は、このまま何も話掛けられないまま終わってしまうのではないかと
焦燥感を持っていた。
そんななか、その日は拓也が用事があって来られず、
崇から話を聞いて藤重がやって来た。
「ゆき、崇から聞いたけど二週間も声掛けられずにいるんだって?」
「そうなんだよ、二週間も挨拶だけ繰り返してると
今更、何を話しかければいいか分からくなっちゃってさ」
「分からない事無いだろ!最低でも聞くのは名前、電話番号だろうが」
「そうなんだけど、この静かな環境で聞く勇気ある?」
「だったら、帰りの駐車場までの間に声掛けろよ」
「二週間、毎日駐車場まで、その背中を追って話掛ける機会を伺い続けて
そのまま、今日を迎えた…」
「じゃ、今日だって同じじゃないか?」
「今日が最後のチャンスになりそうなのは分かってるから
そうならないように何か方法を考える。」
「だったら、こんな離れた席に居ちゃ駄目じゃね〜か
方法考えても実行出来ないじゃん、その子どこいるの?」
「多分、いつもの席にいると思うけど」
「じゃ、偵察兼ねて見に行くぞ!噂で聞くだけで
俺、初めて見るし案内しろよ!」
僕は、藤重を彼女のいる席の近くまで連れて行った。
「おぉ〜噂通り可愛いな、色も白くて人形みたいだな、顔小っせいし
本当にあれで年上なのか?全然そうは見えないな」
「もう、聞いてると思うけど車の運転してるから、年上だよ
18なら1才上なだけだけどな」
今日も近くで、ひそひそ話をしていると彼女が気付いて微笑んだ
「おい!ゆき、彼女俺を見て微笑んだぞ!」
「馬鹿、お前じゃない俺を見て微笑んだんだ!崇も同じ事言ってたけど
俺は、毎日挨拶だけは出来てるから微笑んでくれるんだからな
誰にでも簡単に微笑んでくれる理由じゃないぞ勘違いするなよ!」
「おいおい!そんなにムキになるなよ!ゆきの本気度合いは解ったからさ
こう言うとスゲ〜怒るって、崇の言って通りだな
可愛いさも清純さも崇の言ってた通りだけど、俺の想像を超えてるよ
崇も言ってたけど、あの笑顔で微笑み掛けられると
俺は心が汚れてて済みませんって罪悪感まで持っちゃう気がするよ」
「藤重、柄にもなく文学的なこと言ってるぞ
俺は、罪悪感的な何かなんて持たないけどな
拓也もそんな事は言ってなかったぞ、
可愛いとか、純真だとは言ってたけど」
「それは拓也やゆきが、まだ薄汚れていないからなんじゃね?
二人は、まだ純真さを残してるのかもな
俺や崇は、もっとダークな世界に足を踏み入れてるから
あの光が眩しく感じるんだろうな」
「藤重、今日はどうした更に文学的になってるぞ」
「あの子の微笑みがそうさせるんじゃねか?
ゆきが、天使の微笑みだって言ってるって崇から聞いたぞ」
「藤重だって思うだろ、拓也も言ってたけど
俺らの歳で、あの清純さは奇跡だって思わないか?
どう、育ったらあんな風に儚げにいられるんだろ?
それでいて微笑むと柔らかく温かく包まれる様な雰囲気が漂うんだぜ」
「わかる!確かに、俺の知ってる女の子達とは同じ年代・同じ人種
いや、同じ人間なのって雰囲気があるよな?」
「解ってもらえて嬉しいよ」
「でも、ゆきは、ただ挨拶して微笑み掛けられているだけで良いのか?」
「良い理由ないだろ!」
「じゃ、まず席をすぐ近くの斜め後ろの二人席に移動しようぜ」
僕らは、藤重の言う通りに彼女の斜め後ろに席を移した。
そして僕は、その後の藤重の行動に度肝を抜かれることになる。
こんなキューピットがいるとは…
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