第13話 天使の挨拶

「ゆき、彼女が帰るみたいだ、片付けを始めたぞ」

僕の方から見えない動向を拓也が知らせてくれた。


「拓也、俺さ、後ろから追ったのが分かると嫌だから

 車の方から戻って偶然すれ違う様にしたいから車の所行ってるわ」

「小細工するね!」

「いや、後ろから声掛けるのって、無茶苦茶勇気いるぞ、

 すれ違いざまの方が、どれだけ気が楽かわからないぞ!」

「そんなもんか?」


僕は一度駐車場に行き、戻った。

彼女とは車から真っ直ぐのピロティを抜けた

建物横ですれ違った。


僕は今度は止まって待って

「さようなら、明日も来てくれますか?楽しみにしています。」

と、早口で伝えた。


彼女は、はっとした様子だったが、またしても無言で通り過ぎた。


僕は、意気消沈して館内に戻ろうと歩き出すと

20m程先のピロティから拓也が出て来て止まり

僕の後ろを指差した。


僕が振り向くと、30m程先の車の横で

彼女が飛び跳ねて手を上げて振り

僕が見たのに気付くと頭上に大きな丸を作って微笑んだ。


あまりの可愛い挨拶に僕も飛び上がって喜んだ、

そして、頭上に大きな丸を作った。


彼女は僕の作った丸を確かめると乗車し、帰って行った。


僕は、その車が見えなくなるまで手を振った

そして、その後

彼女のあまりの可愛さ、可憐さに無邪気さに震えた。


「ゆきと彼女って似てるのかもな」


いつのまにか横に来ていた拓也が呟いた。


「おう、拓也見たか?あの可愛い仕草

 とても年上とは思えないよな

 行動だけみたら少女のままだよな?

 ん!似てるって何が?」


「ゆきも彼女も子供みたいに純真で無邪気

 それでいて、異常に恥ずかしがり屋なのが

 似てるんじゃないかなって思ってさ」


「どう言う事?」


「さっきの彼女の様子じゃ、

 okの返事はしたかったけど

 すれ違う時は、恥ずかしくて出来なくて

 あそこまで離れて、やっと言えたって事だろ

 実際、言葉では言えてないけどさ

 今の見てると朝の完全スルーも

 ゆきに話し掛けられる事前に気付いて、

 どうしていいかか分からないし恥ずかしいから

 無視しようって決めてた感じだしな」


「本当かよ?本当なら俺ら両思いじゃん」


「俺はそう思うけど、出来るなら、ゆきは自信持って話しかけて良いと思う」


「う〜ん、信じたい!あの子と話したい」


「お互い恥ずかしがり屋じゃ、きっかけが大変そうだけどな」


拓也の予感は的中した。











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