第8話 武勇伝
夏休みも中盤に差し掛かり、暑い日が続いたこともあり
図書館の学習室は、朝一番に並ばないと席が取れないような日々が続いた。
また、毎日訪れる人達の顔ぶれも固定化され、真面目に受験勉強をするタイプばかりで
会話のないままでの顔見知りばかりになってきていた。
だが、その日は明らかに雰囲気の異なる男が一人並んでいた。
新たに列に並ぶ人を舐める様に睨みつけて威嚇していくのだ
僕と拓也が並ぶ際にも、やはり舐める様に睨みつけ見下す様に、こう言った。
「お前ら、富高生だろ!」
「だったらなんだ」
「お前、女みたいな面の割に突っ張ってんな」
拓也は、最近僕が一番キレる女みたいなというキーワードを聞いて、
うわぁ言っちまったよ、こいつって表情になっていた。
「お前こそ、半魚人みたいな面して他人の容姿に、とやかく言ってんじゃね~ぞ」
「なんだと、こら!」 そいつは、詰め寄って来て「やんのか、こら!」と言った。
そこに遅れてきた崇が、加わった。
半魚人は、その時点で既に腰が引けていたが、
「お前ら、まさか3人掛かりでやろうってじゃないだろうな?」と聞いてきた。
「まさか、お前なんか俺一人で十分だ」と言うと
拓也が心配して言った。
「ゆき、こないだの軽井沢スケートセンターみたいなのは勘弁しろよ」
状況が解らずにいた崇が、
「おっ、喧嘩なのか? ゆき、お前空手三段じゃなかったけ?
喧嘩なんかしていいのか?
こないだも軽井沢で絡まれたやつを失神させたって、武勇伝聞いてるぜ」
「空手三段なのは賢治だよ、俺は剣道初段で三段なのは書道だし」
「書道?、弱そうだな!大丈夫か?こいつ、そこそこ強そうだぞ、
でも、空手三段じゃないなら軽井沢の話は、なん何だ?」
「軽井沢のは、失神なんてさせてないよ、そこまでしたら大騒ぎなって
キョンキョンのコンサート入れなくなくなっちゃうだろ
そこでも女と間違えてナンパするところだったって、
からかわれてキレたんだけど、スリーパーフォールドで首絞め始めたら
謝ったんで、そこで止めて、結局、そいつもキョンキョンファンだから
一緒にコンサート観て盛り上がった。キョンキョン可愛かったぜ!」
「拓也も一緒だったんだろ」
「ゆきといると舐められやすいのか、やたら絡まれて面倒くさいんだよ」
そんな会話で、すっかり怒りの炎が消えてしまった僕が半魚人に
「で、お前どうするの?やんの?」と聞くと
すっかり大人しくなった半魚人が、
「女みたいなんて言って悪かったよ、元々、お前らが富高生なら
藤重って知らないか?
俺、同じ中学なんで聞きたかっただけなんだよ」
と言いはじめた。
「藤重なら三人とも友達で仲いいぞ、明日はここ来るって言ってたし
明日も来るなら会えるんじゃないか」と拓也が言うと
「明日は来れないんで、ミノルが来たって伝えておいてくれないかな」と言った
「わかった伝えるよ」と拓也が請負うと、
半魚人ミノルは、気まずかったかったのか図書館の開館を待たずに帰っていった。
何しに来てたのかは、分からず仕舞いだったが、
ミノルとは、その後も度々電車で予備校に通う時に会い
挨拶を交わす程度の知合いになった。
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