第9話 天使の微笑み

その少女と最初にすれ違ってから、毎朝

図書館の開館前から並び、学習室の席を確保しながら

ろくに勉強もせず定期的に図書館内を巡回すること、2週間


漸く、その日が訪れた。

その日も、いつもと同様に見廻っていたはずなのに

気が付くと少女は、学習室の我々の座る二人席の斜め向かいの一人席に座っていた。


「拓也、拓也!あの子だ!あの子がいる。いつの間に来たんだろ、気付かなかった」


「何んだ落ち着けよ!どこだよ?」


「聞こえるから、大きな声出すなよ斜め前の一人席」


「おぉ~確かに凄げ~可愛いいな、ゆきが天使って言うのも解るな

実在したんだな、良かったな!で、どうするんだ声掛けるのか?」


「う~ん、こんな静かな所じゃ声掛けずらいし、心の準備が出来てないから様子見る。」


「二週間も待ってて心の準備出来てないのかよ、またいつ会えるかわかんないんだぜ」


「あの子が帰る時までに心の準備して図書館を出る時、ついて行って声掛ける。」


「そうか、確かにそれなら声掛けやすいな」


そうは、言ったものの

僕には、少女が帰るまでに声を掛けられる心の準備が出来るとは、とても思えなかった。

そこで、少しでも少女の情報を得たいと考えた。


「拓也、悪いけどあの子の席のそばの本棚見るふりして

あの子のやってる教材見てきてくれない?

もし、受験なら赤本とかで受験する大学とかわかるかもしれないし

教科書から通ってる高校とかも分る可能性もあるし

運が良ければ、本人の名前だって書いてある場合あるじゃん

俺が行くと緊張で不自然な行動になっちゃいそうだからさ、頼むよ」


「しょうがねぇなぁ、昼、ゆきの奢りだぞ」


「いいよ、昼ぐらい 頼むよ」


拓也は、少女が席を離れるタイミングでさりげなくすれ違い

間地かで顔を確かめた上で、机の教材を見てきてくれた。


「どうだった?」


「いや、本当に可愛いな、でも、ゆきは同い年か一つ下ぐらいじゃないかって言ってたけど、

近くで見ると俺には、もっと年下に見えるぞ

高校一年か下手したら中学生って可能性だってありそうだぜ、

中学生は流石に声掛けたら、やばいだろ」


「顔だけ見ればそうだけど、いくら何でも中学生であのスタイルとファッションはないだろ

俺らもそうだったけど、この辺の中学生どこ行くにもほぼほぼ体操服だぜ

スタイルだって中学生の未完成です。って感じじゃないぜ

どう見たって高校生以上だって、この辺の同級生だったら、見てる可能性が高いから

俺は一つ下って線が濃厚だと思う。」


「う~ん確かに、そうなんだけどな、高校生であの清らかさ純粋さって有得なく無くないか?」


「だから、天使なんだって!

 で、拓也、教材見てきたなら、それで判るだろ!どうだった?」


「それも更に訳わかんないんだけど、会計の専門書っぽいんだよ」


「ほぉ~ら、中学生で会計の専門書なんて読むかよ

商業高校なら会計の勉強するのかな?商業の知合いいないから解んないよな

名前はなかったの?」


「名前も教科書も赤本もなし、どう考えても大学受験じゃないな

高校の宿題とかでもないし、簿記の問題集なのかな?あれ

ゆきも見てこいよ、今ならいないから

でも、俺の印象では同級生も一歳下もあり得ない高校1年生が最高齢だと思うぞ」


僕も見てきたが、何の教材か解らなかった。

そこで似たような教材はないかと書棚の資格試験コーナーの棚を見に行くと

そこにあの少女がいた。


僕は近づきすぎない様、気を付けながら少女の見てる書籍の位置を確認した。

少女がその場を立ち去ってから確かめると、やはり簿記の資格試験の本だった。


「拓也、やっぱり簿記の本だったぜ高校生以上は、確定だな」


「じゃ安心して声掛けられるな!ゆき」


「声掛けられるかは、別の問題だよ!考えただけでドキドキして、出来るかな?」


「今まで知らなかったけど、お前、柄にもなく純情だな、男と揉める時とは大違いだな」


「じゃ、拓也が声掛けて来てくれよ」


「いいけど俺が行って上手くいったら、ゆき、それでいいのか?

俺だってあんな可愛い子と付き合えるなら、譲ったりしないぞ」


「それは、困る」


「だったら、自分で行けよ!」


「解ったよ」


斜め向かいの席で、そんなやり取りを小声でしていると

少女がこちらを見て、微笑んだ

そう、確かに微笑んだのだ


僕は、その笑顔で周りの空間に光が降り注ぎ輝きだした様に感じ

呆然となった。廻りの空気が明らかに変わった気がしたのだ


拓也は、気付かなかった様だし、僕には不思議と、

その笑顔が僕にだけ向けられている様に思えて幸せな気分になれた。


そして後に、

これが僕の本格的な初恋の始まりだった事を知る。

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