【ニ】

 聖堂騎士パラディンヨシュア。

 アルマと同じく世界の平和を願って、エレイン教の教会騎士団から勇者のパーティーに派遣された青年だ。白銀の鎧が似合う堂々とした体格に、赤味がかった金髪と、憂いを秘めた辛子色の瞳。女性が好みそうな甘く柔和な顔立ちはため息がでるほど整っている。


 ヨシュアは常に憂いていた。

 旅を続ければ続けるほどにその苦悩は深くなり、ある時、その負の感情が爆発した。

 エレイン教の総本山である、宗教都市ヨハネの大聖堂で変わり果てた仲間の姿。

 勇者たちは仲間が堕ちた原因を知っていながら、原因を解決する術を見つけることが出来ず、ヨシュアを手に掛けた。

 

 この世界は、魔王と勇者の存在で調和がとれている。

 世界がバランスを崩した時、魔王が降臨し、魔王が放たれる紫の瘴気しょうきにあてられた動植物は、魔物に変貌する。

 そして、一定の確率で人間は魔族に……。

 

 今まで、魔族化する人間の規則性は謎とされていたが、魔王討伐の旅を続ける勇者たちは魔族化する人間の条件を見つけてしまった。

 決定打となったのが、魔族化したヨシュアだった。

 

 エレイン教は友愛を掲げて異教徒の弾圧を禁止していた。さらにいうならば、改宗の強制もご法度の筈だった。

 しかし、魔王の侵攻を隠れ蓑に異教徒を弾圧し、法王が裏で保護を条件に異教徒の改宗を強制している姿を目撃してしまった。


 ヨシュアは慟哭する。


「私たちの、騎士団の正義は今までなんだったのかっ!!!」


 神を信じてはりつけにされた聖人エレインの像に向かってひざを折り、血涙を流す彼の姿に、だれもなにも言えなくなる。

 法王の汚職の証拠をおさえようと調べれば調べる程、ヨシュアは壊れていった。

 その中には、ヨシュアが所属していたころの騎士団の活動記録があり、ヨシュアが殺した魔族の手先が、なんの罪もない異教徒だという事実を目の当たりにして、ついに限界に達してしまった。


「泣いているのは貴方ですか?」


 突如、聖堂に木霊した声は音楽のように芸術的で美しかった。

 いつの間にかエレインの像の前に立っている男。

 その男の存在を、本能が告げていた――【魔王】だと。

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