【一】

「これからどうしよう」


 なんとか食事を終えた少年が、途方にくれた表情かおで天を仰いだ。

 ライトブラウンの髪に指を食い込ませて、生真面目な気性を表す太い眉の間に刻まれるしわ。深い苦悩を宿したオレンジの瞳は燃え尽きたように生気を失っている。


「ユリウス、それを今、話し合いましょう」


 ユリウスと呼ばれたオレンジの瞳の少年は少し不機嫌な顔になりながらも、勇気をもって自分に話しかけた聖女に視線を向ける。


 濃紺を基調にした僧衣に、ふわりとカールしたピンクの髪。ふれると柔らかそうな幼げな顔立ちと大きな瑠璃色の瞳が、彼女を年齢以上にさらに幼く見せている。実年齢は勇者と同じ今年で18になる。


「アルマの言う通りだな。国王と謁見する前に、僕たちは方針を固めないといけない」


 と、硬い口調で言ったのは、深紅の法衣をまとった黒髪の偉丈夫だ。

 切れ長の黒い瞳が虚ろな深淵を映し、白い顔がさらに青白く、神経質に目元を痙攣させている。


「うー……」


 同意するようにうめく褐色の少女は赤い瞳に涙を浮かべて、黒髪の男に頷いて見せた。

 儚げな面貌にショートボブの銀髪。華奢な身体に不釣り合いなミスリルの鎧が、彼女の挙動に合わせて、耳障りなきしみをあげた。まるで、悲鳴を上げているようだった。


「レア。ワシもエベルに同意だ、明日の謁見で我らの運命は決まるだろう」


 銀髪の少女に対し、思慮深げに呟く男は剃髪ていはつに四角いアゴを持つ大男だ。鍛え抜かれた屈強の肉体が、純白の道着から浮かび上がり、鷹のように鋭い目つきに、血走った琥珀の瞳からはある種の危うさが見え隠れしている。


 行き場のない空気に、今にも爆発しそうな悲痛な雰囲気が漂っていた。

 だれもかれもが、現実を拒絶し自分の殻に閉じこもっている。

 結論はすでに出ている。議論を重ねるのに、意味はないというのに。


「マタイちゃんもみんなもぉ、どうして今更なことをいうのかな。同じことを何度も何度も繰り返しちゃうと、頭がハゲになっちゃうよ。ペチペチ……」


 わざわざ口に出して、ペチペチとマタイの頭を叩くルカに、一瞬まわりの空気が凍った。

 甘さを感じさせるこびた口調からは、本気で皆を心配している温かみが伝わり、病んだ5人の表情に一瞬理性の光がともる。


 彼女はいつもそうだった。一見して足を引っ張る行動も、作戦の穴を伝える手段であったし、自分たちの視野の狭さを指摘し、一時的な感情に囚われそうになった時も彼女は道化役と汚れ役を買って出た。


「もしかして、ヨシュアちゃんのことを思い出しちゃったぁ?」


 今は亡き仲間の名前に、自分たちが目をそらし続けた現実を突き付けられた気がして、息をのむ気配があった。

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