第22話 美女2人、強襲! 2

 1週間後、無事に自宅療養期間が終わり、巡は高校へ登校することになった。もちろん体育は見学だが、それでも当たり前に登校できる喜びがあった。週に2日は講義の都合で優海は送り迎えができなかったが、残り2日は南が送り迎えした。優海と南という2人のタイプの違う美女に送り迎えしてもらえる巡はインターハイ優勝時よりも注目された。南も小学生の娘がいるようにはとても見えないから人気があった。しかしなんと言っても優海の人気はすごかった。


 下校する巡を迎えにマリンブルーのフィアット500が玄関前に停まると、教室の窓から多くの男子生徒が顔を出し、優海が出てくるのを待ち構える。そして優海が降りると口笛や歓声で出迎え、優海はそれに両手の投げキッスで応え、女子生徒には今日もあざといと罵倒される。そんな毎日だった。


 フィアット500に乗り込み、呆れて巡が言う。


「キャラ変わってません?」


「陰口たたかれずにあそこまでストレートに賞賛されるとこっちも開き直って期待に応えられるのよね。大学でもこれができれば苦労しないんだけど」


 優海は苦笑する。その台詞を聞き、東京で何があったのか大体見当がつき、巡は憮然とした。優海はそれに気づき、赤信号で停まっているときに真顔で巡の顔をのぞき込んだ。


「どうしたの? 私、気に障ること言ったかしら」


「セクハラですね」


「ええ? 私、巡くんにセクハラしたかな――いや、心当たりはいっぱいあるね」


「いえ、優海姉さんのその心当たりはみんな俺にとってご褒美です。東京の大学でセクハラがあるんですね、ってことです」


 信号が変わり、フィアット500は発進する。


「失言だったな」優海は素の声を出していた。「私の大学でのあだ名、『氷のお姫様』っていうんだって」


「誰? それ」


「だから、私のあだ名」


 巡は信じがたいとばかりに首を傾げた。


「人間関係なんて場所によって変わるから。大学で優海さんが壁を作っているのはあだ名からわかる。その原因がセクハラということで仕方がないとも思う。けど、高校に俺を迎えに来てくれる優海姉さんは開き直ることもできるんですよね?」


 巡は笑顔を作る。


「開き直る?」


「自分でさっき言っていましたよ」


「やっぱり巡くんといると自分に発見があるなあ」優海はフウと息をついた。「でも開き直るのにもエネルギーが必要だよ」


「服装から変えてみてはどうですか。大学に行くいつものパンツルックじゃなくって、初めて一緒に高校に行ってくれたときみたいな清楚な女の子っぽい服装をすれば、むしろ恐れ多くてセクハラ出来ない気がする」


「なにそれ、面白い。服装でそんなに変わるかな」


「優海さんは俺の自慢の『姉』ですから、地味な格好で守りに入るより、思いっきり攻撃的に女の子してみてはどうかってことです。男が見る目のベクトルを変えると思いますよ。優海姉さん、最高にかわいいんですから。そうしたら『氷のお姫様』なんかになるはずがない」


 また赤信号に捕まった。優海はハンドルに額を着けんばかりに俯いた。


「巡くん、有罪!」


「え、なんの罪ですか?」


「お姉さんをドキドキさせて殺しかけた罪。殺人未遂適用」


 優海は目をつり上げ、肩で息をしつつ、助手席の巡を見た。 


「本望です」


 巡は優海にそんなふざけたことを言ってもらえたことが嬉しかった。


 青信号になった。優海は話を続ける。


「そんなかわいい格好して、愛想良くして、誰かに口説かれたらどうする?」


「これまで日常茶飯事だったんじゃ?」


「そんなことないよ。だから、どうする?」


「いやどうも。優海姉さんがそんなんでなびくとは思っていないし」


「つまらない。『お姉さんが大好きな弟』を演じて答えて欲しい」


「難しい要求ですね。素の俺が拗ねたらダメですか」


「もちろん、それはそれで」


「予防線張っておけばいいんじゃないですか?」


「どんな?」


「許嫁がいるとか」


「イマドキそんなのもないでしょう」


「じゃあ普通に彼氏がいるとか」


「聞かれたらそう答える」


 そしてチラリと優海は巡を見た。反応を伺っている様子だった。巡は口を閉じる。


「なにか言ってよ」


「高校ジャージじゃない2ショット、撮りましょう。いっぱい」


 優海は満足げに小さく頷き、また前を見た。

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