第16話 温水プールに行こう 2


 巡は覚悟を決めて優海の水着姿を拝む。


 優海の水着はシンプルなワンピース水着で、全体は紺色、胸の周りはふわふわした白いリボンでガードされていたが、その巨大さは隠せないでいる。また、恐ろしいほどウェストが細く、お尻はそれほどの大きさではなく、ほど良い。全体的に見ると水着姿のためアンバランスなほどバストの大きさが強調されてしまっている。リボン越しにもパンと張った形のいい上向きの胸がわかり、巡は心の中で涙した。


「ありがとうございます」


「え? いきなり何?」


「あ、その、連れてきてくれたことに、感謝です」


 プールサイドに人はほとんどいないから、優海の存在で誰がどよめくこともない。休日に来ていたらどうなったかわからんな、と巡は動揺を押し殺す。


「巡~どこいく~!」


「ウォータースライダーだよな」


「いきなりかよ。まずは準備運動だろ」


 双子に手を取られ、巡は四点杖を優海に渡す。優海は荷物と杖をベンチの上に置き、場所を確保してウォータースライダーに向かう3人のあとをついていく。


 残念ながら巡の足ではウォータースライダーへの階段を上るのが難しく、そもそも危ないのではということになり、双子だけでウォータースライダーへの階段を上っていった。巡は階段の手すりに掴まりながら、後ろの優海を振り返ると、彼女が口を開いた。


「ありがとうございますって、意味わかった」


 2人きりになって優海が赤くなった。


「優海姉さん、水着姿、すごく素敵です。かわいいです」


「ありがと。でも、こんなのたいしたことない」


 優海はリボンの上から胸を持ち上げる。


「あります!」


 巡は語気強めで断言し、また優海は頬を赤く染めた。


「まあ、巡くんならそう言ってもいいけど――あ、また素に戻ってた」


「優海姉さんの楽な方でいいんですよ」


「お姉さん口調も割と自然に出るようになっていたけど、動揺するとダメみたい」


 優海は首を傾げる。


「俺はどっちの口調も好きです」


 巡は軽く応えたが、優海は驚いたように表情を固まらせた。


「そんなこと言われたの、初めて」


「口調ですからね、口調」


「わかってるよ。でも、まだお姉さんを演じていたいから、戻るね」そして優海は巡に手を差し出す。「今日の杖はもうプールの中だから、お姉さんも杖になってあげる」


 優海の白い手を見て、巡は少しためらう。いつも腕を組んでいるくらい距離が近いのに、今日は水着姿だからか、余計に緊張する。優海の手はシャワーを浴びたばかりだから冷たい。


「巡~ 早く来い!」


「流れるぞ~」


 双子は早くも流れるプールで身体を流れに任せていた。ウォータースライダーから降りると流れるプールに直結しているのだ。


 優海は巡の手を引き、流れるプールに階段を使ってゆっくり降りる。温水プールといっても冷たくない程度だ。ゴミ焼却工場の余熱利用である。


「気持ちいい」


「痛くない? 大丈夫?」


 流れるプールに浸かると身体が浮力で軽くなり、歩いても痛くない。


「これはいいね。歩くか」


「歩くコースも別にあるみたいだけど。じゃあ、手を離すね」


 優海が笑顔で巡の手を離す。少し寂しかったが、彼女がいなくなるわけではない。


「はい」


 そして彼女の笑顔を堪能する――だけではなく、彼女の巨大なバストが浮くことを目の当たりにして、都市伝説ではなかったのかとある種の感慨に浸った。流れるプールの水深は1メートル。ちょうどおっぱいが波で浮くか浮かないかの水の深さだった。


「巡くん、お姉さんをエッチな目で見るのは禁止です。だってお姉さんなんですから」


「そうでした」


 巡は反省する。


「でも、巡くんにだけなら、見られるのは嫌じゃないのよ」


 そういうと優海は巡に表情を見せることなく、くるりと背面になり、バタ足だけで流れに乗って、先をいく双子を追いかけた。


 遠くから巡を呼ぶ双子の声がして、巡も優海を追いかけ、流れに乗って歩いて行った。


 歩くコースのプールは水深が30センチしかなく、普通の人にはいい負荷だろうが、浮力が欲しい巡には厳しいだけだった。子供用プールは水深80センチでリハビリには今一つ足りず、25メートルプールは水深1.3メートルと双子には厳しかった。結局、流れるプールで玲花に泳ぎ方を教えた。玲花は足の使い方があまりうまくなかったため、力が余計に必要だったことがわかり、優海がしっかりと足の使い方を教えたので、大分マシになった。ジャグジーがあるというので喜んで行ったら、おじいちゃんおばあちゃんに人気のスポットで、双子は何歳? から始まって、どこから来たの? だの、お名前は?、など果ては学校の成績までなど根掘り葉掘り個人情報を聞き出される大人気ぶりだった。


 最後は時間ギリギリになって、ウォータースライダーをバックに4人で記念写真を撮った。巡はスマホの画面を見て、大貫先生にこれを渡すべきだろうかと0.3秒ほど悩んだが、すぐに、ないな、という結論に達した。


 その後、2時間の基本時間を堪能し、4人は温水プール施設をあとにした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る