第29話 優海の家で仮眠する
GW2日目、2人は、自転車旅行の準備に奔走した。上泉は若い頃に自転車旅行を経験したとのことで、いろいろアドバイスを貰ったのでだいぶ心強かった。
上泉も南も自転車旅に大いに賛成してくれた。経験者ならではの賛成ぶりで、2人は話をしているときに何度も見つめ合っていた。いい思い出なのだろう。
巡が荷物をまとめたあと、次は優海の荷物を載せるため、2人はT20号を優海の家まで回送して準備を続けた。
積み荷を減らすために毎日コインランドリーで洗濯する前提で着替えは1回分のみ持って行く。大容量のモバイルバッテリーを複数。それ用の充電ACアダプター。通信エリア外になったときのために地図アプリのデータをダウンロード。緊急時用のアルミブランケットと折りたたみ式の凸凹でクッション性を確保するマット。エマージェンシーテント。テントと言ってもビニールシートが筒になっているだけの簡易なものだ。蚊取り線香。パンクしたときの修理道具にコンパクトな工具類。雨天時のレインウェアもワークマンで買った。相当、荷物を絞り込んだつもりだったが、T20号に最初から付属していたバッグには収まりきらず、上泉から古い防水バッグを2つ借りた。マットはその上にゴム紐でくくりつけた。
T20号の装備は旅の途中で揃えることにした。装備はLEDのダイナモ式ライトとハンドルにつけるタイプのサイドミラーの2つだ。ライトがダイナモ式にするのは長距離なので電源の心配があるため、サイドミラーは、あれば巡が安心できそうだったからだ。
「補給食は宇都宮過ぎるまではコンビニがあるから、最低限あればいいかな」
巡は後ろの荷台が満載状態になったT20号を見て諦めるように言った。
「その辺りは、お任せするよ」
素人である優海には判断ができない。
とりあえずの準備が終わったのは16時過ぎになっていた。
今年のGWは暑く、館山の気温は30度を超えていた。体力の消耗を避け、時間を有意義に使おうと2人は今夜、出発することにした。幹線道路で北上しなければならないことを考え、車が少ない時間帯の方が、巡の精神的な負担にならないからという理由も大きい。
日が暮れるまで仮眠をとることにして、凸凹したレジャーマットの使い心地を確かめる意味でも、2人は居間にマットを展開して、ごろ寝することにした。
「寝心地悪くない。優海姉さんと一緒にお昼寝なんて、どきどきして眠れないかと思ったけど、眠れそう」
巡は冗談めかして言う。風はまだ涼しい。確かに眠れそうだ。
「エッチなのはお預けです」
「わかってますよ。正直、それどころでもない」
旅への不安は優海も抱えている。
「最初の難関は、ウチよね……」
2人で相談したルートは東京根津の優海の実家に1泊し、翌日は巡はオンライン授業。優海は休養。3日目は宇都宮を本拠地にしている、上泉の競輪選手養成所時代からの友人の家に1泊というところまでは決まっている。そのあとは国道4号で福島まで北上するか、日光街道経由で鬼怒川、南会津、会津、喜多方と抜けるかを決める予定だ。どのルートでも470キロほどにもなりそうだった。
優海は祖母に戻ると電話したものの、さすがに男の子を連れて行くとまでは言えなかった。母が例によって不在にしているらしいことが救いだ。
「まさか追い出されはしないでしょう」
「お祖母様に根掘り葉掘り聞かれて、オンライン授業にはならないかも」
「それはそれで困るな」
巡はそれきり口を開かず、すっと入眠した様子だった。
「こんな簡単に眠られると、自分が女としてどうなのかと思うな」
優海は巡の寝顔を見つめ、少々嘆いた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます