第27話 再戦


 唯名の手の内で輝く星の引力が人質を引き寄せ、美夢が確保して即座に恢回毀傷かいかいきしょうによって治療にあたる。

 どれだけ酷い傷だろうと美夢の先天魔術なら生きている限り死なせはしない。

 だが、それと時を同じくして花弁の影に沈んでいた思念体が二体、流切と閃姫が三人の至近距離に現れた。

 恐らくは暗駆の能力によるもの。


「約束を破った結果がこれだよ」

「このくらいを想定してないとでも?」


 無策でくるほど馬鹿じゃない。この状況は想定の範囲内だ。

 八百御霊やおみたまによって朽壊刃衣を憑依させた美里が籠手で閃姫の蹴りを受け止め、清聖星群せいせいせいぐんによって精製され手の平に留まっていた星が魔力の刃を巻き込みながら放たれる。


「リベンジに来たよ」

「はぁ? あんた誰?」

「すぐに思い出させてやるさ」


 力尽くで閃姫を後退させ、それを追い掛ける形で美里が場を離れた。


「こんなものでッ!」


 星の直撃を受けた流切は無理矢理に魔力の刃で星を断つ。

 唯名は油断することなく周囲に幾つか星を浮かべ、美夢は人質の治療を最優先にして流切に目もくれない。

 今のところこちらの想定通りにことが運んでいる。


「で、想定した結果がこれ? 大丈夫? そっちの二人で流切と閃姫を足止め出来るとは思えないけど」

「心配しなくて結構。俺の仲間がきっちり斃してくれるさ」

「すこし楽観的すぎやしないかい? あの人間はキミほど強くないはずだけど」

「たしかにな。だが、楽観的なのはそっちのほうだ。お前、端から美夢たちのことを勘定に入れずに作戦を立てただろ? 大した脅威にならないと高を括ったのが命取りだ、詰めが甘いんだよ」

「へぇ、じゃあ楽しみだね。どっちが勝つか」

「あぁ、すぐにどっちが勝ったかはわかる。じゃ、そろそろ俺たちも無駄口叩いてないで始めようか。ほら、来いよ。必死になって俺への対策を考えてきたんだろ? どれほどのもんか見せてみな」

「キミは一々癪に障る人間だね。いいだろう、ご所望とあらばご覧に入れよう。これがキミを殺すための手段だ」


 俺たち二人を取り囲むように闇が走り、半球状に競り上がって包み込む。

 内部には光というものが存在せず、ただ真っ暗な世界が広がっている。

 視界を奪うだけ? そんなはずはないか。なら第四十一階層、星の隠家での再現をするつもりか? いや、それなら呼びつける場所が第四十二階層なのは腑に落ちない。

 と、なるとどの階層でもよかったってことになるが、暗駆の狙いがまだ読めないな。


「さて、なにを仕掛けてくるか」


 どんな手を打とうがすべて叩き潰して勝つのが俺だ。

 まずはお手並み拝見と行こう。


§


 目も眩むような閃光を放つ火炎。

 その一閃を刃毀れした刃が斬り裂いて掻き消し、間合いに閃姫を捉える。

 再び刀を振るえば届く距離。

 けれど、振り切る前に閃姫は間合いから離脱してしまった。

 地面を砕くほどの爆発で後方に飛び、熱の篭もった爆風に煽られる。

 鎧がすこし焦げただけ、ダメージにもなってない。

 戦えている。以前のような一撃でやられてしまうような醜態なんて晒すものか。

 勝つ。あの閃姫に。


「あー……思い出した。あの時のざこじゃん。なに? 閃姫ちゃんを斃すために修業でもしてきたわけぇ? 汗くさぁ、近寄んないでくれる? ざこに興味ないんですけど」

「雑魚だと思うならさっさと踏み潰せばいいだろう? そう出来ない理由でもあるのかい?」

「は? うっざ。ざこはざこらしく死んでればいいの!」


 放たれた閃光を斬り捨てて、閃姫を見据える。


「僕はもうあの時のような惨めな僕じゃない。閃姫、キミを斃して証明する」

「やって見なさいよ、ざこ。ちゃっちゃと片付けて閃姫ちゃんは暗駆の手伝いに行かなきゃなんだから!」


 菖蒲の元には絶対に行かさない。

 閃姫は今ここで必ず斃す。

 そう約束したんだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る