第26話 人質

「ちょっと待って、人間の諸君って言った? まさかこれ配信の切り抜きじゃ」

「誰だか知らないがご明察だ。つい先ほど、この場面が配信で流れた。世間はすでに大騒ぎだ」

「ホントだ。通知切ってるからわからなかったけど、凄いことになってるよ」

「これは……かなり不味い状況ですね。思念体がどこまでわかってやっているのかはわかりませんが……」

「えぇ、そうね。正直、してやられたって感じだわ。こうして世間の目に止まって人質もまだ生きてる以上、菖蒲は思念体の条件を呑むしかない」

「無視でもしたら大炎上確定だな。するつもりもないけど」


 まだ途中で名残惜しいけど、パーティーはここまでだ。


「俺が向かっていいんだな? 神宮」

「あぁ、そうしてくれ。人質の救助を最優先に行動するように」

「美夢たちも行くわよ」

「思念体は菖蒲一人で来るように言ってたのに?」

「そんなの馬鹿正直に従ってどうすんのよ。バレないようにやるの。時間はまだあと一時間半あるわ。ギリギリまで作戦を練るわよ」

「わかりました。みんなでこの事態を乗り越えましょう」

「すこしでもミスをすれば人質の命はないか。慎重に事を進めないとだね」


 各々の案を出し合い、作戦を練る。

 たかだか一時間とすこしでは大した作戦も立てられないが、足りない部分はアドリブでどうにかしよう。刻限が迫り、俺たちは焼肉屋を後にしてダンジョンに急いだ。

 ダンジョンと外界を繋ぐ施設に足を踏み入れると、多くの配信者の目を引いた。


「行くのか、あいつ」

「そりゃ行くだろ。人命と名声が掛かってる」

「でも、何人も連れてるぞ。いいのか?」

「当たり前だろ。ホントに一人で行く奴があるかよ」

「下手打つなよ」


 多くの言葉を背中に受けてダンジョンへ。

 すぐに虚蜉蝣の巣へと入り、目的地へと辿り着く。

 第四十二階層、新雪の花園。

 そこではまるでゲレンデであるかのように一面に白い花が咲き誇っている。風で舞い上がる花弁が吹雪のように見えることも名の由来の一つ。階層の気温が常に一定に保たれているからか、一年を通して季節を問わず咲き続け、この階層から白がなくなることはない。

 虚蜉蝣の巣から一人でこの地に降り立ち、新雪に足跡を刻むように歩く。

 すると、すぐに俺を呼び出した張本人を見付けられた。


「やあ、よく来てくれたね」


 暗駆一人か。

 最後に斃した暗駆がぴんぴんしてるってことは、残りの二体も完全復活してると見ていいな。残りはどこに隠れている? 状況的に探知魔術を使えないのが難儀だな。


「やっぱり人間って仲間思いだよね。こんな弱い個体なんて見捨てちゃえばいいのに」


 真っ白な花園に赤い血が滴り落ちて穢れる。

 首根っこを掴まれた配信者は動くことも出来ないのか成されるがままだ。気を失っているから、もしくは抵抗する気力も残っていないか。どっちにしろ直ぐに手当が必要な危険な状態だ。


「うん、約束通り一人で来たみたいだね。正直、こっちは破られると思ってたんだけど」

「約束は守ったんだ。殺してないだろうな」

「もちろん。死んだ人質に価値なんてないからね。それに獲物を釣った後のエサにもね」

「殺せば戦う理由がなくなる」

「嘘だね」


 まぁ、通じないか。

 人質から配信について色々と聞いているだろうしな。

 もはや思念体を斃すこと以外に世間を納得させる方法がないと、暗駆はわかっているみたいだ。


「人質を殺されたくなかったら嬲り殺しにでもされろって?」

「そう言ったつもりだけど」

「まさか、そんなのが本当に通るだなんて思ってないよな?」

「さて、どうかな」


 自身の影からなる暗闇から剣を作った暗駆がその刃を人質に向ける。

 以前、自分がそうしたように首を斬ろうとした刹那、唯名の魔術が暗駆の手から人質をひったくる。虹の魔術は光の魔術、これまで儚虹魔術による光の屈折制御によって姿を消していた三人が作戦を実行に移した。

 まずは人質の確保からだ。

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