第24話 1000万人

 脈打つコア。それを奉るかのように建てられた神殿と祭壇。それへと続く階段を下り、暗駆がこちらへとやってくる。


「いやー、ようやく力が戻ったよ。これで本調子だ、やったね」


 気の抜けるような声にはうんざりするが、力を取り戻したようだ。


「閃姫とタイミングが同じだな」

「まぁね。僕は自分で自分を斬ったから余計な思念の拡散を避けられたんだ。回復も早いし、痛みは一瞬だし良いことずくめだよ。流切も今度試してみたら?」

「我は二度と負けぬ。逃げるために首を斬った貴様のような軟弱者と一緒にするな」

「おやおや手厳しい」

「自分だって負けた癖に、えらそー」

「口には気を付けろ、メスガキ。もう一度刻まれたいか?」


 暗駆が完全回復するまでちょこまかと我から逃げ隠れしておったくせに。


「はー? 閃姫ちゃん弱ってなかったら流切なんかに負けませんけど」

「そんなに刻まれたいか。望み通りにしてやろう」

「無理無理。閃姫ちゃんが返り討ちにして焼いちゃうから」

「コラコラ、二人とも喧嘩しない。折角あの人間を殺す算段が付いたんだし、ここで二人に消耗されたら作戦が立ち行かなくなっちゃうでしょ? 押さえて押さえて」

「チッ」

「はーい」


 まぁいい。

 暗駆の手を借りるのは癪だが、あのガキを殺せるなら作戦とやらに乗ってやる。

 爪先から頭の天辺まで順番に刻んでやろう。ゆっくりとな。


「じゃあ、早速準備に取りかかろうか。あの人間を殺そう」


§


「登録者数1000万人、おめでとう」


 本日は記念日だった。

 配信者という肩書きを持つ多くの者が夢見る数字。

 ほとんどの者が手が届かずに諦め、見上げるだけの偉業。

 本日、未明。俺が寝ている間に、どうやらその偉業を達成していたらしい。


「……いま何時?」

「午前四時二十分」

「はえーよ」


 美夢に電話で叩き起こされ、おめでとうを言ってもらった。

 眠い。


「なにがなんでも美夢が一番におめでとうを言いたかったのよ」

「なに、もしかして俺のチャンネルに張り付いてたわけ? こんな時間まで?」

「そうよ」

「一睡もせず?」

「えぇ」

「それはまぁ、ごくろうなことで……いま家の前にいるとか言わないよな?」

「いないわよ」

「そうか」


 流石にそんな妖怪や怪談みたいなことはなかったか。

 ほっとした。


「行こうと思ったけど。あんたの住所知らないし」

「今日ほど教えてなくてよかったと思った日はないよ、いやホント」


 なんかそのうち自力で辿り着きそうな凄味が美夢にはあるけど。

 引っ越しを真剣に見当するべきか?。


「ってことで、今日のお昼からお祝いパーティーをするから」

「うちではやらないぞ」

「ちゃんとお店予約してるから大丈夫。美里と唯名も来るわ。詳細はあとで送るからちゃんと目を通しておいてよね。遅刻厳禁、いいわね?」

「了解。そうか、もう1000万人か。あっという間だな」

「ふふん。当然よ」

「美夢のお陰だ」

「美夢はただ切っ掛けを作っただけよ。あんたに魅力がなかったらこうはならないわ」

「たしかに」

「そういう肯定しちゃうところも好き。じゃ、またお昼にね。美夢も今から寝なくちゃ。夜更かしは美容の大敵なのに」

「寝坊するなよ」

「起こしに来てくれる?」

「行かない」

「じゃあちゃんと起きなきゃね。それじゃ」

「あぁ、ありがとな。わざわざ」

「ふふ」


 通話が途切れる。

 午前四時二十分。まだ寝られるな。

 携帯を投げ出して枕に後頭部を埋めて瞼を閉じる。

 すっと眠りにつき、目が覚めたら時刻は午前十時を回っていた。


「ちょっと寝過ぎたか? まぁ、いいか」


 欠伸をしながら朝済ませるべきことを済ませて、遅めの朝食を取る。

 魔術でレタスとハム、作り置きの荒く混ぜた茹で卵とツナ、各種調味料を操り、パンで挟む。

 独りでに完成して皿の上に着地したサンドイッチを拾い上げて口へと運ぶ。

 いつもと変わらないけど、特別な日。

 もう十時だし、朝食は軽めにしておくか。

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