第23話 企画倒れ
『勝った!』
『マジか!』
『正直負けると思ってました』
『また菖蒲にケツ拭かせんのかよとか思ってすみませんでした』
『今まで散々弄って来たことをここに謝罪申し上げます』
『鎧武者の美里くん格好いい!』
『これなら思念体にリベンジできんじゃね?』
『とにかくおめでとう』
賞賛のコメントが次々に読み上げられ、光を放つ結晶に反響しては響いていく。
階層渡りの原因は取り除いた。直に思念獣も自らが居るべき場所に帰るだろう。
「すこしは近づけたかな。菖蒲に」
鎧が解け、掻き消える。
「まだまだ道のりは長いってところかな」
「だろうね。けど、大きな一歩を刻めたよ」
いまの実力なら相手があの閃姫でも十分に渡り合えるはず。
と、大団円な雰囲気の中、美夢が美里の背中を強めに叩いた。
「いったっ!? 姉貴? なにをするんだ」
「この短時間に何回も心配させた罰よ。勝つならもっと余裕で勝ちなさいよ」
「はらはらどきどき、ずっとしているようでした。私も釣られて気が気でなかったです。ほっとしました」
「へぇ、そうなんだ。あの姉貴が僕の心配を……変なものでも食べた?」
平手打ちの連打が美里の背中を襲ったのは言うまでもない。
「いだだっ! いだっ、痛いって!」
弟なりの照れ隠しか。微笑ましいことで。
「ということで、今回の配信は無事に企画倒れってことで」
「そうだった、美里をしばいてる場合じゃないんだった。変異体、二体いたでしょ? 禁断の三体目がいたりしない?」
「しない、とは言い切れないけど。ここから先は俺たちの仕事じゃない」
「冒険者組合からの依頼は変異体一体の討伐。すでに菖蒲さんと美里さんで二体も斃しているので実質二倍の労力が掛かっています。私は特になにもしていませんが」
「仮に三体目がいたとしても、そいつの討伐はまた日を改めて再度冒険者組合に依頼してもらわないとな」
「くぅ……しようがないわね。美夢も観念したわ。じゃ、耐久配信は五時間半で終了よ」
「うん、いたって平常運転」
『通常配信かな?』
『いつも通りの配信をありがとう』
『ほどよい長さで助かる』
『むしろ短いまである』
『お疲れ様でした』
『次の配信も楽しみにしてる』
配信が切れたのをきちんと確かめ、うんと伸びをする。
何日かかかるかと思われた仕事が数時間で終わると、なんかちょっと得した気分。ここから数日間はなにをしても時間的な損にならない素敵ライフだ。
いつもは気怠かったり、時間が勿体ないように感じてやっていなかった挑戦をしてみようかな。料理とか、DIYとか、前評判が微妙だけど好みにはどんぴしゃな映画とか。
「さて、じゃあ帰りましょ。打ち上げどこにする?」
「実は行ってみたいところが。すこし遠い場所にあるのですが」
「いいんじゃない? 配信も早く終わって時間もたっぷりあることだし」
「いいね、時間的な余裕を楽しみながらゆっくり歩いて行こう」
なんの予定にも追われていない、真に自由な時間を贅沢に使って楽しもう。
まぁ、とはいえ、流石にダンジョンの中は早急に抜けたいので、今回も虚蜉蝣の巣の世話になった。
どの階層にいても十分程度で第一階層に戻れるというのはやっぱり便利だ。
「各自荷物を置いたら集合ってことで」
「はい」
「美里、あんた美夢の分も荷物置いてきてよ。足腰鍛えられるわよ」
「やだよ。姉貴こそ僕のを頼む」
「じゃんけん」
「ぽん!」
勝負の行方は美夢の負け。
「今日の僕は最強だ!」
「ぐぬぬぬ、今日は厄日ね。まぁいいわ、ほら貸しなさい」
「重いよ」
「重っ。どれだけ持ってきてるのよ」
「食糧数日分とその他もろもろ」
「それにしたって重いわよ、これ。なに入ってんの? 美夢の荷物より重いじゃない。まったくもう!」
とは言うものの、美夢もダンジョンで戦う配信者だ。あのくらいの重量は問題ない。かさばるから身動きが取りづらいことのほうが煩わしいくらいだろう。
「さーて、僕はその辺の店に入って暇つぶしだ。姉貴、頑張って」
「ソッコーで置いて戻って来てやるわ」
「では、私も急ぐとしましょう。負けるわけにはいきません」
「いつの間にかレースが始まってるな。じゃ、俺も一着を目指すか」
各自、各々の魔術を駆使して空に舞い上がる。一着は当然、俺だった。食後のデザートかなにかを奢ってもらおうかな。
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